思いつくままに

□或る朝
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う〜ん。
眠い。
目が覚める。

寝覚めはそんなに良くはない。
パフパフの枕にうつ伏せになってた顔をすりすりする。
エイヤッと顔を上げる。

はぁ〜。朝だ。

着心地の良いクタクタのパジャマのままでキッチンまでぺたぺたと歩く。
取り敢えず…、
「水、水…」
ガラスのポットに水を入れ、コーヒーメーカーにじょぼじょぼと注ぐ。
カンカンを開け、セットした無漂白の茶色いペーパーの上にふわっとした良い香りの粉を大体1杯分ぐらいかなと付属の深めのスプーンで移す。
後はカチッとセットしてボタンを押す。

まだ眠い。
けど。

歯磨きに洗顔を済ませ、ちょっと濡れた洗面台周りを尻目に、タオルを洗濯用バスケットに投げる。
よし、まだ洗濯は大丈夫。
バスケットの半分が埋まっている。今日帰ってから洗濯機と乾燥機を回そうと心の中で算段する。
鏡の中から見返す顔はまだちょっとぽやぽやしてる。

コポコポとコーヒーメーカーの音が聞こえる。
対面キッチンとリビングとベッドの横を通り過ぎ、クローゼットでパジャマを脱ぐ。
Yシャツは取り敢えずクリーニング。袋から出す。アイロンは使わないから必然的にそうなる。

ベッドに座り、黒の薄手の靴下を履く。アンダーシャツを着て、Yシャツ、ネクタイ、スーツを着る頃には、もう大分仕事モードに。
最後にキッチンへと移動し、カップにコーヒーを注ぐ頃には自然と顎を引いている。

ダイニングテーブルの椅子に座り、カップを傾けながら室内に目を遣る。
「そりゃ…」

困る。

この部屋に来られたら。

先日、会社の部下が会話の漏れる心配の無い場所を希望し、自分の部屋でなければ俺の部屋をと提案したが、それは速やかに辞退した。
冗談ではない。

「俺のサンクチュアリ(聖域)だ」
クタクタの着慣れた洗い晒しのパジャマ。抜け出た人型の付いたベッド。程好い乱雑さのキッチン。スリッパなんぞ無用だ。
およそ自分のパブリックイメージとは程遠いと思われるに違いない、ぬくぬくとした俺の巣。

「ふん、上等だ」
ええかっこしいなのは自分でも判っている。一人称も外では『私』や『僕』だ。
ちょっと長めの前髪を撫で付ける。
きっと会社では卒なく隙きの無い人間と思われてるだろう。付き合いの長い人間は、そこはかとなく気付いてるだろうが。
結構ザルでいい加減な俺のプライベート。
仕事は普段地道に根気強くやっていくしかないからこそ、言葉の一つ一つのニュアンスも大事にして相対している。真摯に。
それが、自分の仕事。

最後にこくんとカップを煽り、コーヒーの残りを飲み干す。
「んじゃ、行って来ます」
ソファーの上に無造作に投げ出された仕事鞄を手にして、部屋のドアを閉める。
実家で暮らしていた名残りの挨拶を部屋に響かせ。

俺のモーニングルーティーン。
もとい、
私のモーニングルーティーンです。

誰が興味があるんだ。こんなもの。
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