思いつくままに

□ショート集
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『ウザ絡み』



「なぁなぁ淳太君これーーー」
来た。
めんどくさい。
どうせまたウザ絡みや。




と、思いつつ…。
「なんや」
つい相手をしてしまう。
ほんっとメンドクサイ絡み方をしてくる年下のメンバー。
でも自分の性格上、無下にもできない。

何故なら。
知っているから。

彼の生真面目さも、仕事への真摯な取り組み方も、自分の立っている場所に対する一途な想いやシビアさもーーー知っているから。

だから。
多少のことには目を瞑る。
しつこいくらい絡んでこようと、それは彼なりの気を許していることの証なんだから。ここが自分の場所であるという認識があるからこそ、なんだろう。
だって以前はこんなことはなかったから。
それは分かっているんだが。

「お前っ!たいがいにしろよっ!」
しつこく絡んでくるその脚に蹴りを入れる。
「うわっ!」
と言いつつ逃げる顔がめっちゃ笑顔なのにも腹が立つ。
睨んで見せる。不機嫌そうな仏頂面で。
これぐらいせんとやめん。





あの日。
たまたまホテルの部屋が同じだった。
地元の大阪から、東京での事務所のカウントダウンコンサートに、仲間4人で参加して泊まったホテル。
終わって、夜半。

発表してしまった。
カウコンで。
デビューと、メンバーを。
一番はデビューすることやったから、それは否やはない。むしろ発表することでデビューへの言質が取れるから、それはいい。
けど。
メンバーは…。
本当なら、それは7人のはずやったのに。気が付けば東京に呼ばれていたのはその内の4人で。
スタッフと4人で打合せが始まる。なんで4人?あとの3人は?
誰も聞けない。
怖くて。
でも聞くしかない。最年長の俺が、聞くしかない。
「なんで4人しか呼ばれてないんです?」
答えるスタッフの言葉に、一瞬で血の気が引く思い。
「そんな……」


その後の事務所スタッフからの説明は、新人タレントのデビュー戦略としては非常に理に適っていたんだろう。
納得できないという思いと、でも納得するしかないという思い。
これが現実。
デビューは、事務所的にはちゃんと商品を売る為のプロジェクトで。そこにはセオリーもあるだろうし、金も人も動く。道楽や遊びやない。勿論そんなことは十分に分かっている。
ーーーそして俺らは、そこに所属しているタレントや。

せやから。
納得せなあかん。
ここには居ない3人のことも、ちゃんと考えてくれている。
ならば。
道は違っても…ちゃんとお互いの道を進めるならば…。



「淳太君どう思います?」
そんな夜半。
ツインのベッドの並んだホテルの一室。
重い沈黙を破って聞いてくる。
生真面目な瞳がこちらをひたと見据えている。

元々は違うグループ。
年は5つ違う。
年下のメンバーのグループでセンターを張っている彼。俺はといえば、関西ジャニーズJrの中では年長で。シンメの相方とJrを引っ張ってきた。いや、引っ張るつもりでやってきた。
彼らのグループはいわば弟グループ。絶対俺らのグループに追い付いて追い抜いてデビューしてやるという純粋な思いが傍から見ても伝わってきて、微笑ましかった。
同じ関西ジャニーズJr内だから、全体の人数もそんなに多くはないし舞台やコンサートも一緒にやっていたから、人となりは分かっていた。
真面目。ちゃんとアイドルしている。笑顔が印象的。センターだから前で喋ることも多い。

関西は専用のレッスン場もないし、マネージャーも居ない。
リハがそのままレッスンやし、先輩が後輩をしつける。マナーや仕事のやり方やなんやかんや。衣装の畳み方片付け方も先輩からだし、後輩が遅刻した時は先輩が叱り、ダンスや芝居についても先輩から学ぶ。
そうやって俺らはやってきていた。関西ジャニーズJrの先輩と後輩として。


そんな彼が、一生懸命重い空気を破って告げる。
「俺…7人でデビューしたいです」
うん。
「そりゃ俺もや。けど…」
「分かってます。でもやっぱり7人がいいです」
お互い事務所の言うことは理解していた。
ただ、違うのは。
俺はそこで事務所の言うてることに理があると思ってしまったが、彼はそこで納得していなかった。
「デビューする以上は大きいグループになりたいです。その為に、と考えたら」
7人の力が必要だと。たとえ一人分の露出が1/4から1/7になっても、個々の浸透が7人の方が難しくても、それを補って余りあるメリットが存在すると。それだけの価値が3人にはあると。
その言葉に込められた強い想い。

結論は出ない。それでも。
朝までずっと話し合った。
何が正解かは分からないが。それでも現状を何とかしたくて。

それがまず一番濃い彼との時間だった。
そんな彼を知っているから…。



同じグループでデビューして。
それまではいくら一緒に仕事をしていたとはいえ、そこには厳然たる先輩後輩関係があった。入所の時期や年齢など。
でも同じグループとして活動していく以上、もうそこは横並びでいいんじゃないかと思って。
敬語や丁寧語も不要でタメ口でいいからと伝えた。メンバーは対等やないとな。


『俺も皆に支えられているし、俺も皆の支えになりたい。そういう存在になりたい』
と皆の前で涙した俺の元相方。今は2人組じゃないから、メンバーは二人だけではない。だから元だ。でもずっと一緒にやってきた二人だから、今でも目を見るだけで言わんとすることは伝わる。
その彼が。
デビュー時のことを『しんどかった』と口に出してファンの前で涙した。
その姿に。
ようやく…一つのグループとなれたんだと思えた。
ちゃんと自分の弱いとこも見せることが出来て、ちゃんと誰かの支えになれる、そんな場所。
それが、俺らのグループ。自分達で望んで7人でデビューした、俺らの居場所。


せやから。
ここまで彼がウザ絡みできるのは、相手がメンバーからやこそってのは分かっている。
きっと彼なりの甘えや信頼感の表れなんだろう。
唯一そういうのを出せる場所。
その証拠に、以前はそんなことはなかった。普通に、アイドルしているセンターという顔しか見せていなかった。



『なぁ絡んでこられるの好きなんやろ?』
ラジオで他のメンバーから問われる。
年は俺が最年長だが、今では普通に誰からもタメ口。
その時は肝心の彼はいなかった。
『な訳ない。ほんまメンドクサイしやめて欲しいわ』
『淳太君まじ怒るからリアクションがおもろい』
それも腹が立つ。ほんま絡みがしつこいねん。
事ある毎にウザ絡みされるこっちの身にもなってくれ。
『けど…ほんま、嫌なん?』
と、ちょっと慮(おもんばか)る声で。俺が本当に彼の行為を嫌がっているのかと問うている。そのニュアンスは伝わるから、
『ウザ絡みはめんどくさいけど…可愛いとは思うよ』
一斉に周囲が沸く。
『可愛いと思ってるんやー!』


るさい。
やって甘えてきてるん分かってるんやから…そりゃ可愛いわ。

でも、ほんまウザいねん。
あほみたいにしつこく絡んでくるから。
限度を知れ!
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