思いつくままに

□ショート集
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『5歳児』

いつも。

ちょけた仕草のお前。
大概のことは受け流す。
やって、お前の欲しいのは俺のリアクション。
それが分かっているから、普段はそこそこの対応。
それでも。
多分きっと。
俺の反応はお前からすれば十分過ぎるんだろう。
ふっと予測なしに降ってくるお前の予想外の行動に、つい驚いてしまう。
そんな俺を見て楽しそうに笑うお前。
いや。
そんな俺らを見て周りも笑ってるからーーーきっとお前の意図するところは、本当はそこなんだろうからーーーそれが分かってしまうから…。
俺も無下には怒れない。
いや怒りはするが、それもお約束。そこまででワンセットの茶番。

それに…な。
実を言えば…。
ウザいばっかやない。
お前の絡み。

チョケてウザ絡みを延々としてはくるが。
実は。
こっそりと俺の様子を測っている。
無邪気にチョケている様に見えて、ひっそりとその瞳の奥で俺の様子から気持ちを測っている。
”ここまでは大丈夫”
”あ、やばい。本気で怒りそう”
そんなことを…あのチョケた言動の後ろからひっそりと測っている。

そんな、実は慎重なお前。

そんなお前の事は分かり過ぎるぐらい分かっている俺らやから。
5歳児みたいなお前の言動も赦せる。
決して他人をズケズケと踏みにじりはしない。

ミーティングでも、必ず相手の良いところを見つけて褒めるお前。それは決して自然にやってることではない。意識的にやっている。
そういう自分でありたいと思って行動しているから。
そういう自分になりたいと、努力するお前。
決して、そんなことは言わず。
自分は見せず。

けど。
分かってる。
もう何年一緒にいるか。
俺ら7人。
同じグループでデビューする前から、同じステージに立っていた。その頃は先輩と後輩で、今と立場は違ったが。
だから分かっている。
踏み込んではいけない線引きも、好きなことも嫌いなことも、相手の気持ちも。
決して口に出しはしないが。


年始から始まった今年のツアー。
いつからだっただろうか。
途中のあるシーンで。
俺にしか分からない時に俺にしか分からない表情を向ける。
いつも。
いつも。

めっちゃ変顔。

俺にしか分からないように、俺だけに向けて。

最初は思わず吹きそうになった。
次いで堪えた。
やってそこは笑ろたらあかんとこやねん。
笑顔見せるような場面やない。
なのにコンサートの途中で、狙って俺に見せる変顔。
 
あかん、あかん!
あほ!
笑てまう!
必死で笑い堪える俺を見て、これまためっちゃ
楽しそうなお前。
目が、
キラキラしてる。
 
うわー。
腹立つなー!
一瞬俺へと向けた変顔は、次の瞬間どシリアス顔に変わり、何事も無かったように歌の世界観に溶け込んでいる。
くそー!
腹立つわ。

でもそんなこっちの感情はお見通しで、めっちゃ楽しんでいるのが、シリアス顔の奥からこっそり漏れている。

まじムカつく!

ほんとに、ほんとに、ただただ俺の反応を見て一人こっそり楽しんでいるだけやねん。
腹立つな。
俺はお前のおもちゃか。



そんなことが続いたツアー。
そろそろ半ばに差し掛かった頃。

今日も今日とて、その時がやって来た。
飽きもせず変顔を俺に向けるお前。
普段は分かっていながらもつい笑いそうになり、それを必死に堪えている俺。

でも今日はーーー。

ポカンとするお前。

ふん!
舐めんなよ。
そうそうお前をいつも楽しませてばっかやないからな。


…え…。
でも。

その瞬間のお前の…。

ちょっとショックを受けたような表情にこちらがびっくりする。
そんな…そんな表情すんねや。…なんで?
俺…そんなにショック受けるようなことしたか?



何をしたかと言えば。
いつもの変顔に、全くリアクションを見せずに、思いっきりどついてやった。
歌の最中にも関わらず。
表情変えずにがっつりどついた。
そのまま無表情でダンスを続ける自分。
すっとすれ違った時のお前の表情が…。
めっちゃ傷付いたような表情。

え?
なんで?
俺がリアクション返さへんかったから?
そこまで俺お人好しやないぞ。
なんでお前が傷付くねん。
 
むしろずっとチョケられて被害を被ってたの俺やぞ。




謎が解けたのはその数日後。
コンサートの合間に、たまたま夕飯を一緒に食ったメンバーから、それは種明かしされた。
コンサートの途中でずっと変顔されていた話をついでのように告げる。
「あ〜それな。聞いた、聞いた」
と、夕飯の相手のメンバーが。
「え?誰に?」
「この前な」
どうやらお前が喋ったらしい。

「ところがいきなり表情変えずに、どついて来たから『うわ〜やってもた〜さすがに怒らせてもうた!』って思うたんやって」
「そりゃそうやろ。ええ加減俺でも怒るで」
「で、『やってもうた!』としょげてた訳や」
「ん?」
「大好きで絡んでたのに怒らせてもうた〜って…」
「はぁ?」

それだけ?
俺…あの時のお前の顔…結構目に焼き付いてて悩んでたんやけど…。

「いや、淳太怒らせてもうたんがそんだけショックやったんやろ」
苦笑しつつ流星。
「なら、最初からコンサート中にウザ絡みしてくんなや」
呆れる。

「どんだけ淳太好きやねんてことやな」
やっぱ苦笑しつつ、いつものことやけどと流星が。
「要らんわ。代わったろか」
「いや、遠慮する」
あっさりと同期のメンバーにさえ切られるシゲ。


「まぁええわ。もうせんやろ」
あれだけガーンて顔してたんやからな。
「ん〜」
ちょっと複雑そうな顔で、テーブルの向こうから返事が返ってきた。

ん?
なんや?同期だからこそ分かる…何か…?
まぁええわ。もう懲りたやろしな。



さて。
次の会場に移ってのコンサート。
リハも無事終わる。
今までなら必ずされていた変顔が、今日はない。
神妙な顔つきのシゲ。
さすがにシゲでも反省したに違いない。
 
晴々とした気分で本番に向かう。 



なのに。

うわー!
や…やられたー!
以前の何倍もグレードアップした変顔がぁぁぁー!
めっちゃ目の前に。

お前!
反省したんやなかったんか?!

くそッ!
『なんのこと?』って顔でこっち見てる。
嫌いや!
お前なんか!

俺めっちゃ笑うてしもたやん!
シゲのあほ!





「あ〜あ。またやってる」
「シゲも懲りんけど、淳太も毎度毎度ええリアクションやわ」
とは、俺らのやり取りを見ていた俺の相方とその同期のメンバー。
「ああいうとこが淳太かいらしんやけどな」
としたり顔で。


って…知らんわ!
俺最年長やぞ!
なんで”かいらしい”とか言われてんねん…!
三十路やのに!


「へへへ淳太のみっそじぃ〜♪」
どこからか変な節を付けた歌声が聞こえる。
「……シゲー!」
「わー!淳太こわいこわい」
どつかれた頭抱えて逃げていった。



やっぱお前ーーー5歳児やわ!

  
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