貴方の声がする方へ

□ご褒美はドーナツ
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「ハクちゃん!悪かった!!
俺が不甲斐ないばかりにハクちゃんに怪我をさせてしまってすまない!!」

翌朝、検査を終え、屯所にいる医者の処置で十分だと判断され退院したハクと共に屯所へと戻るなり、近藤さんが玄関で土下座をして待っていた

突然の謝罪にハクは驚いたように動かない

そりゃそうだろうなと思う

なんせ、ハクを今まで道具として使ってきた者の中に
『すまない』
なんて言葉を使った者はいないだろう

「勲?どうしてそんなことを言うの?」

こいつが俺や近藤さんの言葉を理解出来ないのを目の当たりにすると、ますますハクの過去が気になって仕方ない

そのうち、記憶が戻るのではと思っていたが、天人の作った薬ならばその可能性はほぼないだろう



「あ、そうだよね、謝ってばかりじゃ良くないな
ありがとうハクちゃん俺を守ってくれて」


屈託の無い笑顔で笑ってそういう近藤さんに、ハクは微妙な表情のまま立ち尽くすだけだった
















「……」

俺の部屋でいつものように書類整理をするハクは、黙々と作業を続ける

相変わらず気配は薄いが、前のように気を張っていないと感じられないほどでは無くなった

「十四郎、これ判子」

「おう」

書類を受け取るとハクは大抵すぐにまた仕事に戻るのだが、今回は違っていた

「どうした?」

「はじめて、言われた」

「は?」

「ありがとうって」


ハクの言葉に、俺は少し驚く

(そういや俺、言ったことねぇな)

書類を渡される時も、コピーしてもらった後も、「おう」としか言ってない

「ありがとな」

「?」

「言い忘れてた
近藤さんを守ってくれてありがとな」

ハクは目をまん丸にして驚いている

「どうして?私は十四郎に言われた事をやっただけなのに」

「だからありがとなって言ってんだよ」

「…………」

きっと、記憶を無くす前のこいつにとって、命令を聞いて礼を言われるということが無かったのだろう
不思議そうな顔をして俺を見るハクが、いつかそれが当然だと思う日が来るのだろうか




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