貴方の声がする方へ

□求める理由
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「十四郎、会議は終わったの?」

「あぁ」

部屋に戻ると既に書類の整理を終えてくれたらしいハクが、キッチリと揃えられた書類の置かれた文机の前で正座していた

相変わらず仕事が早くて助かると思うと同時に、仕事が終わったならもう少し楽な体勢でいればいいのにとも思う



「真選組に来る前のこと、覚えてるだけ話してくれねェか」

「ここに来る前のこと……?」

「あぁ」

ハクはしばらく考えるようにしてから口を開いた

「私、どこかの城にいた
目が覚めたら目の前に顔に傷のある男が立ってた

男は私の名前は『ハク』だって、そう言って私の事を気絶させた」

「ハクってのはその傷の男がつけた名前だってことか?」

「そう……だと思う……」

なにか違和感があるのか歯切れの悪い返事をしたハクだったが、その後また話を再開する

「次に目が覚めたら信女が私を抱えて何度も何度も『キュウ』って言う声で目が覚めた」

「きゅう?」

「なんのことか信女に聞いても教えてくれなかった

その後は信女と一緒にお城を出て、信女の家……見廻組に行った

信女は私と一緒にいたいって言ったけど、しばらくして私は松平の所に行くことになった」

「………」

ハクを姉だと慕うあの女が、ハクを松平の元へ行かせたという事に俺は違和感を感じた

佐々木が何か言ったのか?はたまた別の理由か……

「それで、一週間くらい松平の娘の栗子と一緒にいて、それからここに来た」

ハクがいた城というのは恐らく江戸城の事だろう

そうだとすれば何故、定定はハクの記憶を消したのだろうか?

それに一体何の意味があるというのか………



「十四郎?」

「あ、わり………」

すっかり考え込んでしまっていた俺がパッと顔を上げると、かなり至近距離にハクの顔があった

近くにこいつの顔があると、今朝のことを思い出してしまう

おれはさっと立ち上がると今目をつけている攘夷浪士の情報がまとめられた書類に目をとおす

「……吉原か……」

敵が主な話し合いの場として使っているのは吉原らしい

ここに来たばかりの頃は何度か行ったことがあった

「吉原って?」

おれの後ろからハクが首を傾げながらたずねる

「ん?あぁまぁ……なんて言ったらいいんだろうな」

こういう時のこいつは真っ直ぐ俺の方を見て俺が答えるのを待っている

吉原の事なんてそんな目で見られると余計に答えにくいんだが……と思いつつ、はぐらかすのもよくないと適切な言葉を探す


「なんて言やいいのか……女が男を楽しませる場所……みたいな?」

「どうやって?」

「どうってその……一緒に遊んだりとか?」

なんの穢れも知らなさそうな瞳に、はぐらかすのはよくないと思いつつもフワッとした事を言ってしまう

と、そこで俺の部屋に山崎が入ってくる

「土方さん、やっぱり今度の件は吉原に潜入しないと無理じゃないですか?」

「あーあー!そうだな」

山崎と話してりゃハクにこれ以上吉原の説明なんざしなくてもいいだろうと扉の近くで座っている山崎の方を向く


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