シリーズ

□Rain
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『これは…!?』
驚きの声が波紋のように響いた。
レビィ達は緑豊かな林の中にいた。風にざわざわと木の葉が揺れて、空を鳥が飛んでいく。
『…また過去の世界か?』
前回と同じような状況に、ガジルが眉を顰める。レビィが首を振った。
『あれとはまた違うよ。これは書いた文が視覚化される、珍しい映像魔水晶が内蔵されている本みたい』
『ということは幻か。確かに木が揺れているのに風も感じないな』
リリーが側の木に手を伸ばす。何の抵抗もなくその手は幹をすり抜けた。
『大したものだな』
腕を組み感心したように頷くリリー。その向こうから、山道を誰かが歩いてくる。
黒いマントの赤茶色の髪の少年と、山吹の服にゆるいウェーブのかかった空色の髪をポニーテールにした小柄な少女。利発そうな広いおでこにくりっとした瞳。
『チビな所までそっくりだな』
『もうっ』
母と…フリージアと、少年の声が聞こえてくる。どうやらクエストの内容を話しているようだった。
「盗賊から守ってほしい?」
「村に伝わる古文書が狙われてるとかでな」
鈴のような声と、聞き覚えのあるそれより少し高い声。鋭い眼光は相変わらずだがまだその顎には髭も無くどこか表情もあどけない、若き日のギルダーツ。
「私、武闘派じゃないのに」
「ドンパチはオレがやるさ。ただ古文書関連はお前の方が扱い上手ぇだろ」
文献絡みのクエストなんて。仕事の好みまで似ていてレビィは思わずクスッと笑った。
やがて、見えてきたのは山深くの村。
すり鉢状の盆地に不規則に並ぶ家。特筆すべきは亀だろうか、甲羅を背負った二本足で立つ生物の像が、大小様々に村の至る所に立っている。
南の奥には山ほどある一等大きいその亀が村を見下ろすようにそびえ立っていた。
「守り神かな。なんだか独特な村だね」
「…だな」
ギルダーツはポケットをごそごそ漁るとクシャクシャになった依頼書を取り出した。
「とりあえず、村長の家行くか」
「うん。まずは事情を聞いてからだね」
ふたりが歩き出したその場面で、景色が暗転した。

『どーなってんだ?コリャ』
『何も見えんぞ』
ガジルが辺りをキョロキョロ見回し、リリーがそっとレビィの足にしがみつく。
『あ、そうか。このページが終わったんだ』
簡単な原因に辿り着き、レビィはページを捲る。すぐさま辺りの景色が色づいて、今度は家の中にいた。

「盗まれたあぁ!?」
ギルダーツの素っ頓狂な声がした。
振り向けば、ほの白い髭と眉を立派に伸ばした村長とおぼしき人物に彼が詰め寄っていて、そのマントをフリージアが懸命に引っ張っている。気圧された村長は後退ってからコホン、と咳払いした。
「け、今朝早くに村の者が祈祷をしていた所を強奪されたのです。あれは、この村の甲羅様をお祀りする祭事が記されている大切なもの…ですから依頼の内容は少しばかり変更させていただきたい」
「甲羅様…って、あの亀のような大きな像ですか?」
「そうです。はるかな昔からおわす甲羅様…我らがあの古文書に記された通りの祈祷をかかさず行えば村は災厄から守られるであろう…もし古文書の禁を破れば村は災厄に見舞われるであろう、と言い伝えがあるのです。私たちはその教えに従い、今日まで甲羅様を大切にお祀りしその恩恵を受けてきました。なのに…」
ギリ、と歯を食いばる顔に浮かぶ痛恨の色。
村長はふたりを正面から見据えると深々と頭を下げた。
「どうか、古文書を取り戻していただきたい」
「…どこの誰が盗んだ、とか心当たりはあるんですか?」
未だマントを引っ張ったままのフリージアが困り顔で問う。村長が頷いた。
「トイ、セキ」
奥に声をかけるとふたりの青年が現れた。ひとりは足と右目に包帯を巻き、もうひとりは腕を吊っている。
「村の若い衆です。盗賊を追って返り討ちに遭いましてな…」
「盗賊は全部で4人。3人は武器を持っていて…あとの1人は魔法使いみたいな奴でした!」
余程悔しかったのだろう、腕を吊っている方、セキが前のめりになって言う。
「やつらは今も東山にある廃屋をアジトにしています。どうか…」
もうひとり、トイの言葉にフリージアの眉がぴくりと動いた。
「?どうした、フリージア」
「盗賊の狙いは古文書だけじゃないかもしれない」
眉を顰めるギルダーツに、だってとフリージアは続ける。
「古文書だけが目的なら、手に入れた時点で遠くへ逃げるのが一番だわ。なのにまだ近くにいるということは他に必要なものがあるということ」
ギルダーツの顔が険しくなる。彼女は静かに頷いた。
「まあいい。さっさと行って取り返せば何も問題は無くなるってことだろ」
「そういうこと。この依頼、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が確かに引き受けました。絶対取り返すから、安心してくださいね」
ぐっと拳を握っていう姿はレビィと全く同じだった。
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