短 編
□幻想華
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街の大通りが煌めいている。
キラキラと光る舞台が列を成し移動していた。
ウェンディの咆哮に乗ってロメオとアスカが宙を飛ぶ。
マックスの砂が城を象り、ビジターが踊りながら埋もれていく。
すっかり恒例となったジュビアとグレイのコンビとストラウスきょうだいの魔法演舞。
ルーシィ、ナツ、エルザと有名なメンバーが現れると街道を埋め尽くす観客が大いに沸く。
街の収穫祭を飾り、ギルドが大陸に誇る輝く妖精の舞台ファンタジア≠ヘ…
今年も、大成功を収めようとしていた。
パレードの終着点でガジルは壁に背を預けていた。
周りでは同じく出番を終えたメンバーたちがお互いを労い、急いで祭に繰り出していく者もいる。
次々に目の前を通り過ぎていく彼らを横目に、ガジルは静かにその時を待っていた。
「ガジル!」
賑やかしい音の中から、真っ直ぐ届く愛しい声。
待ちくたびれたぜ、と心の中で呟いてガジルは壁から背を離した。
慣れない衣装とヒールに苦戦しながら、向かって駆けてくる小さな姿。
「レビィ」
無意識に口元が綻ぶ。
ガジルまであと一歩、というところで気が緩んだのだろう。
石畳に躓きレビィはバランスを崩した。
「きゃあっ」
「おっと」
思いがけず胸に飛び込んできた妖精を受け止めると、腕の中でえへへ、と恥ずかしそうに笑う。
可愛らしいその姿に一瞬だけ力を込めて抱きしめてから、身体を離した。
「ごめん、ありがと」
「おう。お疲れさん」
ガジルの腕に少し頼って姿勢を正したレビィは、待ってくれていた恋人を改めて見上げた。
いつもの白いスーツとは違う舞台衣装。
瞳よりも鮮明な深紅のシャツに黒いズボン。
豊富な黒髪は高い位置で結わえられ、下ろされた前髪が彼を一層ワイルドに見せている。
対して、レビィは収穫祭の時期だけ伸ばしている空色の髪を肩下まで靡かせていた。
深い青と銀で縁取りがされた純白の衣装は、彼女の可憐さを更に引き立てている。
お互いに見惚れたまま動かないふたりの横から、ヒューヒューと口笛が近づいてきた。
「見つめあっちゃってまー、お熱いことだねぇ!」
「青春…いいなぁ青春!オレも今からミラちゃんと…くぅぅっ」
「マ、マカオ!ワカバッ」
「ほらほらっいいから続きやっちゃえって!」
「ぎゅーってしてから?どーすんだっ?なぁガージールッ!」
「〜〜〜ッタチ悪ィぞ酔っ払い親父ども!!」
レビィの肩を抱き素早く後ろに隠してから、ガジルはマカオとワカバに嚙みついた。
しかしその剣幕もなんのその、ふたりは更にもて囃しては彼の反応を楽しんでいるようだった。
やがてそれにも飽きたのか、ワカバがガジルの後ろのレビィを覗き込む。
「しっかしその格好するとレビィも霧の妖精だな!」
「こらっワカバ!」
まだガジルをからかっていたマカオが、大慌てで手を伸ばしその口を塞ぐ。
ワカバも額に汗を浮かべてしまったという表情でレビィを見ていた。