短  編

□太陽の花
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双子たちが、過去の世界から帰ってきてから1週間が経っていた。
レビィからは大目玉を食らったものの、ロメオとアスカのとりなしや、過去の冒険譚がギルドメンバーに好評を受けたことですっかり自信をつけた双子は、前にも増して冒険に行きたがるようになっていた。
それは、ギルドだけでなく毎日の食卓でまで話が上がるほど。
その度に親子は互いに譲らない平行線のやり取りを続けているのだった。

「もう、母さんって本当に頑固だな!“頭で分かっていることと、本当に理解していることは違うの!”なーんて言っちゃってさ!」
「いつも、ダメだってばっかり言って!母さんは、わたしたちの事なんてちゃんと見てないの!」
「そうだそうだ!ちゃんと見ていれば、おれたちがどんなに魔道士になりたいかわかるはずだよ!」

双子が口々に不満を言うのを黙って聞きながら、ガジルは長い黒髪を何本か引き抜いた。
大きな手で器用にそれらを縒り合せていくとその端を適当な枝に、もう一端には鉄で作りだした針を結わえつける。
手近にあった石を転がしてその下にいた虫をとると、針に刺してポイ、と川に放った。
ここはカラタチ近郊にある自然公園。豊かな森に囲まれた家族連れにも人気のレジャースポット。
今日も今日とて朝からその話題となり、不穏な空気になってしまった家の中を見かねたリリーが、物見遊山に行こう!と半ば無理やり一家を連れ出してきたのだった。
「あん時のガキ共オマエらだったんだな」
早くも当たりがきた竿を引き、手早く魚を気絶させると氷を張った鉄の籠の中に入れた。
また石の下から餌を調達すると、再びポイ、と川に放る。
帰って来てからこの話題には一切触れることのなかった父が急に興味を示した事に双子は驚いた顔をした。
「父さん、匂いで分からなかったの?」
シュトラが少し不満げに言う。気づかれたら気づかれたで困るものの、反応がないというのもそれはそれで寂しかったのだろう。
「似たよーな匂いしてんな、くらいにしか覚えてねぇ。知らねぇヤツの匂いはやっぱり知らねぇしな」
「ひどーい、よく知ってるのに」
「そんときゃ知らねぇだろ」
「あ、そっか」
あの時全く興味無さそうに入口に立っていたのに、それでも匂いだけは確認していたのを知ってシュトラは嬉しそうに父を見上げる。
あー、と何度も呻きながら納得いかない、とヤジェも見上げて話を蒸し返した。
「おれたち、ちゃんとした冒険者だって、あのエルザにお墨付きもらったんだよ?」
ガジルは微動だにせずに、2匹目の当たりを流れ作業のように捌いた。
「父さんは好きにしていいって思ってるんだろ?たまには母さんにガツンと言ってよ!父さんの方が強いんだからさ!」
父が興味を示した今がチャンス、と言わんばかりに小さな拳を握りしめて、力説しながらヤジェは熱く訴える。
「あぁ?馬鹿言うなよ」
3匹目。また手早く川に釣り糸を垂らす。
ガジルの視線はそこから離れない。
「オレよりレビィの方がよっぽど強ぇよ」
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