サンシャイン★ドリーム
□横断歩道
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「けっこう長引いちゃったな」
取材の仕事を終え新聞社から出てスマホで時間を確認する。少し遅めのランチは何にしよう?なんて考えてた時ちょうど電話が震えた。
液晶ディスプレイに表示された名前は清陽さん。
最近はお互い仕事が忙しくメールのやり取りだけだったので嬉しくて口元が綻んでしまう。
心を落ち着かせて、ちょっとだけ余所行きの声でボタンを押した。
「はい、もしもし?」
『真実子、今どこ?もう飯食った?』
「さっき毎読新聞社をでて、これからお昼にしようかなって思ってたところです」
『マジ?俺も近くに居る。明明軒の麻婆豆腐が久しぶりに食いたいんだけど、一緒に食わね?』
「食べますっ!」
……しまった。思わぬランチデートに声が大きくなってしまった。
受話器越しには笑いをかみ殺したような声が聞こえる。
じわっと赤らむ頬をおさえ、私は指定された三番町通りに早足に向かった。
二車線のそこそこ車通りの多い車道にでると、車線を挟んで対向側の歩道に黒いライダース姿の清陽さんが居るのに気づく。
視線が合うと清陽さんはこちらを向いて立ち止まり、少し笑った。
たしか目的地の中華料理店は清陽さんのいるブロックにあったはず…
私は左右を見渡し横断歩道を探すけれど見当たらない。
うーん、いっか。少し行儀が悪いけど今日はスキニーパンツだし渡っちゃお。
腰より少し低い歩道と車道を隔てる柵に、両手をかけて脚を引っかけないよう丁寧に跨ぐ。
右左右
安全を確認をし右手を上げて車道を横切ろうとした時…
目の前にタクシーが止まった。
「え!?わっ、あ、すみません!の、乗りません!!」
慌てるわたしを見て、柄の悪そうなタクシーの運転手は溜め息を吐きそのまま通過していった。
(うわぁ…恥ずかしいっ!!)
手の裏に汗を握りしめ思わず柵に身体を預ける。
車の往来の向こうで、お腹を抱えこれでもかってくらい楽しそうに笑ってる清陽さんの姿が見えた。
車通りが少なくなった頃合いで、清陽さんが軽々と柵を越えこっち側にやってくる。
「コントかよ!腹いてー」
「…そんなに笑わないでください!」
「手を上げて道路渡ろうとする大人、初めてみた。小学生かつーの」
歩道に戻ってもずっと肩を揺らす清陽さんに、気恥ずかしさもありむくれて顔を反らす。
「そんなに早く会いたかったんだ?」
ニヤリとした顔で覗き込まれ、私は一瞬で耳まで真っ赤になってしまった。
暫く歩くとすぐに横断歩道が見えてくる。
(うぅ…こんな事なら大人しくここまで歩けば良かった!)
二人で信号待ちをしながらさっきの失敗を心から悔やむ。
「真実子がまたタクシーを止めないように」
信号が青に変わった瞬間、右手をぎゅっと掴まれる。
清陽さんは前を向いたまま颯爽と横断歩道に足を踏みだした。
「あーさっきの真実子、マジで笑える。仕事で行き詰まったら、さっきのおまえ思い出そ」
「もう…引っ張りすぎですっ。思い出すならもっと良い瞬間にしてください!」
その時、振り向いた清陽さんの顔がとびきり甘く優しかったので
私は思わず胸が詰まり、彼の手を引く形で先に横断歩道を渡りきった。