【短編】 鉄血のオルフェンズ
□悲槍
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「知っているか…憶えているか。タービンズという組織の名を。名瀬タービンとその妻を」
ナイフを男の首へと持っていく。
輪状軟骨、その隣の、力強く脈打つ血管。
間違うことなくこの場所へナイフを突き立てれば、二分以内には大量出血で死ぬ。
そうしてもいいが、私にはそれよりもやらなければならないことがある。
「ああ、憶えているとも。私が粛清した、民間企業の名だ」
この状況で、さも誇らしげにほざく男の口内へ素早くナイフが移動する。
刃を頬の内側に沿わせ、口端が裂けるぎりぎりの位置で止める。
さすがに言葉を失った男へ微笑み、私は反駁した。
「粛清?違うなぁ…あれは、粛清なんて崇高なもんじゃあない」
その口端を支点に、ナイフの切っ先を舌の上へ置く。
それから上顎へ刃を向け、ナイフの峰で強制的に下顎を開かせる。
喋る必要はない、お前は聞いていればいい。
「…あれは虐殺だ。それ以外の何でもない。
お前は自らが所属する組織の規則を破って禁止兵器を持ち出し、利用し、民間人を虐殺したんだ。
身に覚えのない濡れ衣を着せられた名瀬タービンは、家族を守るためお前に膝を折った。
一度目は停戦信号。
お前はこれに取り合わなかった。
二度目は降伏信号。
お前はこれにも取り合わなかった。
なぜだ?どうしてだ?見えていなかったはずはない、ならばなぜ?どうして取り合わなかった?相手が手を上げたにもかかわらず、どうして貴様はそれを撃ち抜いた!!!」
ナイフが男の咽喉へ滑る。
内側のどこかを切ったのか、男が短く呻いた。
「降伏した相手を貴様は殺した!
自分の手柄のために!飼い主へ獲物を捧げるために!
貴様はただ自分の為に二人の人間を殺したんだ!自分の手を汚すことなく!卑劣な手段で!
それの何が粛清だ!それの何が正義だ!!
秩序を守るギャラルホルンの筆頭に立つセブンスターの一人が、秩序を捨てて私欲を満たすために人殺しを行う!
これのどこが!これのどこに!!正義と呼べるものがある!!!」
扉の向こうから足音が聞こえる。
ここからが、クライマックスだ。