DGS 〜どうやら ガチで シリーズ化〜

□DGS 〜 Different Good Someone 〜
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DGS 〜だいぶゲスなストーリー〜                    SIDE - "D"

「───────…。」
 いつもの事なのだが、局入りした俺にそっけない挨拶を返した後、神谷さんはずっと黙って本を読んでいる。
 表に出たときはあんなに喋ってるのにと驚く人もいるほど、裏側モードの神谷浩史は大人しいのだ。これがモンハンでもしていてくれれば話しかけようもあるのだが、こうなると何を話しても「うん」とか「ふーん…」とか、つまらなそうな、ともすればうっとうしそうなリアクションしかしない。聞いていないわけではないので、後でもう一度同じ話題を振って、「 それ、さっきも言ってたじゃん」などとつれなくされるのも始末が悪い。
 しかも、気のせいと言われるかも知れないのだが、なんとなく俺、小野大輔に対しては特に態度が冷たいようなのだ。

「… 神谷さん、俺のこと嫌いなのかなァ…?」
 問うでもなく、呟いた。他意はない。ただ、考えていたことが言葉になってしまった。完全な独り言…だったのに。
「───…そーでもナイ」
 ぽつりと、呟き返されていた。
 驚いて顔を上げる。でも、視線の先にいた神谷さんは、本に没頭したままの姿だ。ページをめくる細い指も無関心そのもので、爪の先すら自分に向いていない。
「…そう…スか…?」
「…。」
 当然、会話なんか続かない。
 返事かどうかも曖昧なまま、無言が続く。
 妙な緊張感の中、更にページをめくる音がした。軽い紙の音が(俺だけにとってはなのか)重い空気にそぐわなくて、意味もなく咳払いをしてみる。
「ぅん゛んっ!」
 思ってたより響いた音に、俺自身がヘンにビビる。神谷さんはというと、相変わらず無反応だ。まるで空気のようにシカトされている。さっきのあれは空耳だったんじゃないかとすら思えてきて、ちょっと切なくなる。
 そんなら自分も時間潰しの何かをしてればいいんだろうけど、何故か神谷さんが気になって、ゲームする気にもなれない。気付いたら、机を挟んで正面に座っている神谷さんを観察でもするかのように視てしまっていた。
 気難しげな小さな顔は少し伏せがちで、てっぺんにある髪の分け目が微かに見える。細いツリ眉の下のタレ目は、今は静かに活字を追っている。唇はムスッと閉じられていて、ヘタしたら本番まで開かれることはないかもしれない。「小野くんに興味なんか無いよ」といつも言ってる台詞を体現していてスキがない。他に何人かいればもうちょっとラクに話せるのに、二人だけだと、なんとなく壁を作られているようで近寄りがたい。

「───…なに、じっと見てんの?」
「…え?」
 急に話しかけられてドキッとした。神谷さんは(多分わざと)俺には目を向けず、溜め息のついでに伸びをしたようなポーズで言った。
「ヒマならスマホでも台本でも見てればいいのに」
「あー…まぁ、そうなんスけど」
 珍しくまだお呼びのかからない会議室に、気不味い空気が流れてる。神谷さんは、怒ってるのか呆れてるのか判らない表情(カオ)をしていて、やっぱり俺を見ようとしない。
「僕なんか見飽きてるでしょ、同じ現場多いのに」
 でも、なんでか見てしまうんだよなあ。そう、心の中だけで反論する。後で絶対「気持ち悪い」だの「ヘンタイっぽい」だの言われるって解ってても、やっぱり目で追ってしまう。くるくる変わる表情、年相応に振る舞うかと思えば、子供みたいにはしゃいでいたり。素っ気ないのにやたら接近してきたり、でも手を伸ばすとかわされるような。本心がどこにあるかなんとなく解るような気がするのに、実際はよく判らなくて。なんだか猫っぽい。だからかな、付き合いが長くなって随分馴れたけど、そういうところは未だに少し苦手なんだ。次にどう動いて、何を始める気なのか。解らないから気になる。気になるから見てる。そんなところか。…いや、多分それだけじゃないな。なんというか、この乱暴で、下ネタの王様みたいなのが可愛いとか、実は思っているからかもしれない。

 なんてことは、本人には説明できないから、結局子供の言い訳みたいなことを言ってしまう。
「どうしたらいいか分かんなくて、なんか見ちゃうんスよ」
「はあ? なにそれ」
 気持ち悪い、と続きそうなニュアンスで言われる。迷惑そうにも、馬鹿にしてるようにも見える表情。もしかして怒らせた? そんな風にも見える。ほら、やっぱり分かんねぇ。なんとか笑いにベクトル向けたくて、どうにか言葉を繋げる。
「かわいーし、怖ぇーし、…何なんだろ、コノヒト? みたいな感じですかね」
「……」
 しまった。やっちまったか。神谷さんはしかめっ面で黙った。背中に嫌な汗をかきながら、次の言葉を探すも見つからない。意味もなく「あ゛ー…」とか唸っていたら、神谷さんは大袈裟なくらい大きく溜め息をついた。
「ほんっと、よくわかんねー。黙って見てるし、意味不明なこと言い出すし」
 がたんっと椅子から立ち上がる。ホントにヤベぇ。会議室、出て行っちゃうかも。
「神谷さん…っ」
「遊んでほしいならそー言えばいいのに」
 すたすたと机を回り込んで、すごい近づいてきたかと思うと、いきなりぐっと右肩を掴まれた。すごい苛立ったような顔がギリギリまで近寄ってきてたじろぐ。見下すような角度がハンパない威圧感だ。逃げ出したくて、背中から腰にかけてがヒヤリとする。血の気が引いていく感じ。
 神谷さんはそのまま少し顔をずらして、狼狽える俺の耳元に寄せる。視界の端に、もう触れそうな位置で、少し口角の上がった唇がゆっくり動くのが見えた。

「ヤる?」

 ものっすごい艶っぽい声で囁かれて、がっと一気に脳が沸騰する。
「かかかかか、かみやさっ…?」
 ところが、その声の熱量に反して、神谷さんはすいっと身体を離した。そのまま自分の鞄の方に行き、DSを探り出す。
「しょーがねーから、一狩り付き合ってやるよ」
「…は…? モンハン…?」
 思いっきり脱力。前にめり込む感じで机に突っ伏した。ところで、スタッフからのノック。
「お願いしまーす」
 …マジですか? このテンションで?
 横目に、肩揺らしてくっくっく…と笑う神谷さんが見えてる。ホント苦手だ、このヒト。

 立ち上がりながら、態勢を立て直す。絶対やり返してやるからなああああっ!

 本番表モード全開で、俺達はブースに向かった。


〜 END 〜

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