DGS 〜どうやら ガチで シリーズ化〜

□DGS 〜 Different Good Someone 〜
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DGS 〜だいぶゲスなストーリー〜                    SIDE - "C"

 最近、小野大輔が鬱陶しい。
 否、本人がどうこう、というより(ああ、全くウザくないと言えば嘘になるが)周囲の反応が、だ。
 僕こと神谷浩史と小野くんは仕事自体が被りやすいせいもあるのだが、同じラジオ番組を長くやっているので、わりとセットみたいに扱われがちだ。いつの間にか「神谷×小野」的な空気が出来上がってて、例えば今みたいな取材なんかでも「二人で○○するなら?」とか、「お互いにとっての相手はどういう存在か?」みたいな質問が、他と比べて多い気がする。何もしたくないし、何とも思っちゃねぇっつうの。僕がはっきりそう答えてても、小野くんの方が変な方向性のサービス精神発揮しちゃって、相手が求めてると勘違いしたようなテキトーな事を言うもんだから、そういう「お二人ってホント仲良いですよね♥」的反応が減っていかない。大いに迷惑なんだけど。
 更に言えば、その「仲イイ」に流れちゃってる風で、小野くんの言動がおかしい気がする。
 この前もやたらこっちを見てたし、変にキョドってて、気持ち悪い。やりにくくて、ぶっちゃけイライラする。フツウにしてればいいのに、何かにつけ、こっちの反応を気にするそぶりがなんとなくイヤだ。だいぶ馴れてきたと思ってたのに、番組開始の頃に戻ったみたいになってて謎。
 できれば、仕事以外では関わりたくない。そんな風に思ってしまうほど、今の小野くんはヘンだ。「仲良くしなきゃ」とでも思ってるのか、妙な気を遣っているようでカンに障る。僕の反応によって態度や意見を変えようっていうビクビクした接し方が気に入らなくて、つい邪険にしてしまう。攻略中のヒロインじゃあるまいし、そんなんでギクシャクしちゃったら、番組の内容にだって影響しかねない。そんなのごめんだし。そもそも、なんでそうなっちゃったのか分かんねぇし。もしかして、僕が怒りすぎたのかな。ううん…、だとしたら、ちょっと抑えなきゃいけないのかなあ…。 

「神谷さん、ホントにツンがブレないっスねぇ」
 取材終了後、移動中のエレベーターで小野くんが言った。何なんだよ、それは。反論めいたことを言いたいのだが、かえってめんどくさい展開になりそうなので黙っておく。それを察してくれる相手ではないので、小野くんは言葉を続けた。
「もう少しデレてくれたっていいのに。かわいーのに」
 かわいーって何なんだよ。そんな形容詞を僕に使うなよ、イミ分かんねェから。
「……。」
「そりゃあ、ツンでも充分かわいーですけど…」
 スネたような口調で続けられたのは、もうほとんど独り言だ。小野くんはわりとこんなカンジの独り言が多い。「そりゃ、拾ってくれないからですよ」なんて事を以前言われたのだが、そんなファウルボールみたいなもん、いちいち拾ってられるかい。
 いつも通りにスルーして、扉に目を向ける。丁度タイミングよく到着して、ドアが開いた。ラジオの収録に合わせたインタビューだったから、取材は局内で行われて、終了後そのまま番組の打ち合わせに入る。…筈だった。が、
「あれ? 誰もいねーじゃん」
 会議室は無人。すると、後ろから入ってきた小野くんが、あ゛っとヘンな声を上げた。
「そーいや、取材早く終わったから、20分待ちって聞いてた」
「は? なんだよ、それ」
 振り返ると、小野くんは大して悪びれもせずに、
「じゃー少し休憩できますね。らっきー」
 嬉しそうに言うもんだから、ちょっとムッとした。
「らっきー、じゃねえよ。何で先に言わないんだよ?」
 すると、小野くんは一瞬「あ」の形に口を開いてから、唇を尖らせた。
「今言ったからいーじゃないスか」
 口ごもるような発音にイライラする。
「だから、ココに来る前に言えっつってんだよ」
 別に、どうでもいいことなのに。
 でも、連絡を忘れたことより、小野くんの態度に腹が立っていた。
 謝らないどころかヘラヘラしてて、怒るの控えなきゃなんて、ほんのちょっと悔いた僕の気も知らないで。空気読む素振りはすんのに、結局検討違いなことやってて。そんで僕はやっぱり怒りすぎて、厭な気持ちにさせられるんだ。小野くんのせいで。
「そーいうところがムカつくんだよっ」
 吐き捨てるように言って、目を反らした。顔を伏せる間にちらっと見えた、小野くんの哀しそうな、傷ついたような表情が痛い。ほら、また言い過ぎちゃったじゃん。
「───すいません」
 ぺこりと頭を下げながら、小さな声で小野くんは言った。このまま一緒にいたら絶対気不味い。僕は何も答えず、会議室を出ようとドアノブに手を伸ばした。けれど、そこに手が届く前に、手首をがっちり掴まれてしまった。
「…っ!?」
 びっくりして顔を上げると、何故か切羽詰まったような表情の小野くんと目が合った。なにコイツ? なんで引き留めてんの? しかもめっちゃシリアス顔で。
「は…なせよ」
「イヤ、です」
 思いっきり「イヤ」の部分を強調される。それでなくてもハンサム顔なのに、そんなに真剣な顔で近付かれたら、そういう性癖じゃなくてもたじろいでしまう。あんまり真っ直ぐ視られるもんだから、まともに視線も向けられずに焦る。なんだ? このシチュエーション。
 いつの間にか、ドアと小野くんに挟まれてしまっている。小野くんが左手を僕の顔の真横についたから、「壁ドン」ならぬ「ドアドン」になった。僕の左手はまだ小野くんの右手に掴まれたままだから、ドアを開けて逃げることも出来ない。そもそもこのドア、内開きだし。
「…小野くん、近い」
「別にいいじゃないですか。スタジオで同じマイクに入るときだって、このくらいでしょ」
 でも今は収録中じゃないしっ。大体なんで僕らでギャルゲーみたいなことやらにゃならんのだ? 何のつもりなんだよ、ホントに?!
 視界が、呼吸(いき)が、体温が、混ざってしまいそうなほど近い。心臓の音まで聴こえそうな距離は、異常なくらい恥ずかしくて。騒いだら騒いだだけドツボにハマりそうな気がしたから、僕は俯いて黙った。

「ちょっ…、なんでそこでおとなしくなっちゃうんですかあっ?」
 小野くんはびっくりしたみたいに両手を離した。
「そこで黙られたら、マジみたいじゃないですかっっ」
 妙に焦って手をぶんぶん振っている。

 ………。

 ぶち。

「……ほぐあァっ?! 」
 鳩尾に一発、拳を叩き込む。
 マジってなんだ!? なるかあああっ、そんなもんっ!

 二つに折れて苦しむ小野くんを見ながらスタッフが集まって来たのは、その10分後くらいだった。

〜 END 〜

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