DGS 〜どうやら ガチで シリーズ化〜

□DGS 〜 Different Good Someone 〜
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DGS 〜大嫌いなぐらいが最適値〜                    SIDE - "D"

 節分が終わるか終わらないかの内に、街はもうバレンタイン一色に染まっていた。それっぽいポスターやらPOPやらに囲まれて、色とりどりのパッケージに包まれたチョコレートがずらりと並ぶ様は、まさに女子のテリトリー。甘い香りときらびやかな見かけに反して、獲るか獲られるかをかけた執念とか、ただならぬ決意みたいなものに満ちている、戦場のような場所だ。
 それをぼんやりと眺めながら、俺、小野大輔は途方に暮れている。

 去る1月28日は、ラジオでの相棒、神谷浩史の誕生日だった。その日に近い放送分で“聖誕祭”を行い、番組収録中にプレゼントを渡すのが慣例となっているのだが、今回の品はいつにも増して不評だったらしい。演出上泥まみれのプリペイドカードを摘まみ上げて、神谷さんはその細いツリ眉を寄せた。
「…お前さぁ、さすがにこれはなくない?」
 ほぼ現金じゃん。と、収録中もその後もずっとそんなことを言っていて、さすがに俺もちょっと反省した。そこで、実際の誕生日に別の何かをプレゼントしようと思っていたのだが、品物を決められないうちに1月が終わってしまったのだ。あんまり日が経ち過ぎると何のお祝いなんだかも判らなくなるし、と、ラジオ収録前に寄り道してみたものの、何をあげるべきかまるで思い浮かばない。街に出れば何かいいものを見つけられるかもしれないと考えたのに、時期が悪かった。
 山積みのチョコを前にして、さてどうしたもんかなと思う。
 チョコかあ。定番のおっぱいチョコなんか、ウケは狙えそうだけど、喜んではもらえなさそうな気がする。だいたい毎年この時期、大量にチョコ貰ってるしなあ、あのおじさん。
 そんなことを考えながらボケーっと歩いていたら、「甘いものが苦手な彼に…」なんてコーナーに辿り着いた。チョコの代わりに、酒とかコーヒーとか、菓子以外のものがバレンタインっぽい包装をされて置いてある。日本酒とお猪口、洋酒とグラス、なんてセットもあっていいかなとも思って見たけど、うーん、とってもラヴァーズ仕様。そういうの俺から貰っても嬉しくないだろうし。それ以前に、神谷さんが独りで熱燗だの水割りだのを呑んでるような気がしない。ビールなら家でも呑むって言ってたけど、どっちにしろ酒類は得意じゃなさそうだし、どうせならちゃんと使ってもらえるもんがいいしなあ。そうやって一つ一つ見比べながら、なんか溜め息が出た。
 っつうかさ、番組でも言ったけど、いいおっさんが同性に誕生日プレゼントって何あげりゃいいんだよ? しかも先輩に。そりゃあ喜ばれるものが判ればそれをあげるけど、あのヒト、大概のモン持ってるんだぞ。考えれば考えるほどワケ解んなくなって、結果、局近くのコンビニで誕プレ.comになったんだ、バカヤロー。
 せめて、すごく呑む人だ、とか、すごく食べる人だ、とかなら判りやすくて良かったのに。神谷さんはそのどっちでもないし、それほど好きじゃないもの貰うと逆に迷惑かもしれないし。
 あーでもないこーでもないと考えを巡らせながら、商品を見るでもなく歩いていたら、バレンタインコーナーから随分外れてしまっていた。いや、別にバレンタインのプレゼントを選んでたワケじゃないからいいんだが。
 そこはどうやらパーティーグッズのコーナーらしく、ぴっかぴかの三角帽子やらクラッカーやらが置いてある。あー、一番用のないとこかも。そう思いながらも、鼻眼鏡やレインボーカラーのアフロのヅラなんてのを手に取ってしまう。ビンゴマシーンなんか貰っても嬉しくないだろーなあ。まだチョコフォンデュマシーンの方がマシか? 使わなそー。
 だんだん煮詰まってきた上に、またチョコの山に遭遇してるし。つーか、チョココーナー多すぎだろ。もう適当なチョコにしちゃおうか。…って、待て待て、そういう適当なのがいかんと思ったからこうして悩んでるんだって!
 俺はぐっずぐずに煮えた頭を振りながらチョココーナーをスルーした。

 何か飲んで休もう、そう考えた俺は、視界に入った自販機にふらふらと近寄った。取り出し口に手を突っ込んだところで、すぐ傍にアミューズメントスペースがあるのに気付く。お茶で少し回復した俺は、なんとなくそこに入ってみた。置いてある筐体がほぼプリクラとクレーンゲームで、そのせいか平日の昼間である今、客は少ない。筐体の中に山と積まれているマスコットは、見覚えがあるようなないような代物で、可愛いんだかなんだかもよく判らない。ただ、山のてっぺんをクレーンで崩せば、何個か取り出し口まで転がり落ちそうに見える。コインを突っ込んだのは無意識だった。1回で充分だろ、と鼻唄混じりにボタンを押す。クレーンを山の頂上まで持ってって、下げるボタンを押す。
「てれっつ♪」
 クレーンは山を軽く押し付けて僅かに開いた後、ゆるゆると閉じて上がっていき、定位置に戻る。…はて? マスコットの山はびくともせず、なんだったら更に押し固めてしまったようであった。
「……むぅ」
 俺はコインを追加した。てっぺんからちょっとずれた所に下げた方がいいようだ。さっきより慎重にボタンを押す。いい感じに斜面で止め、クレーンを下げる。
「べーべっつ♪」
 クレーンは山を軽く押し付けて以下略。でも今度はほんのちょっとだけ、出口に向かって3センチくらいマスコットがずれた。あともう一押しくらいなんじゃないか? 更にコイン投入。今度は大分クレーンの位置が外れた。更に1回。あともうちょっと…!? くそっ、もう1回だ!
 ってなことを繰り返し、ついに1個転げ落とすことに成功した。
「っっしゃあああっ!!」
 勢いよく拳をグッと握り込んでしまってから我に返る。プリクラの前にいた数人の中学生っぽい子達に変な顔されてしまった。ってか、もう放課後的な時間なのか。気付いたらかなりの額と時間を突っ込んでいた。ヤバい、もう行かないと。俺は手のひらサイズのマスコットをひっ掴み、慌ててそこを出た。

 滑り込みセーフで会議室に入ると、神谷さんはいつも通りに不機嫌そうな顔を上げた。何か言おうとして口を開けるも、両手一杯に紙袋を下げた俺に気付いて中途半端な形のまま止まる。俺は構わず、神谷さんの前にその幾つもの紙袋を並べた。
「……何? これ」
「えーっと、誕生日プレゼントのリベンジ、的な?」
 包装してもらわなかったので、中身は剥き出しのままだ。神谷さんは凄く困った顔で、それでも、
「あー……、ありがとう」
 と言ってくれた。紙袋の中身を見て(袋も開きっぱなしだから丸見えなんだけども)、諏訪さんが「何? パーティーでもやんの?」と不思議そうに言う。神谷さんは困惑した表情のまま、袋の中身を一つづつ出し始めた。
 大定番おっぱいチョコは推定Cカップ。日本酒とお猪口は御チョコ付き。三角帽子と鼻眼鏡は+レインボーアフロで魅惑のコーディネート。一家に一台、ビンゴマシーンとチョコファウンテン。
「何かもう、ほんとに思い付かなくて…そん中から欲しいの何個でも貰ってってください」
 もう正直にセンスないのを認めるしかない。ごめんなさい。項垂れていると、神谷さんは、うーんと唸りながら紙袋をたたみ、それから、
「あれ? 何かもう一個ある」
 そう言って、袋に手を突っ込んだ。
「なにこれー? かわいーじゃん」
 出てきたのは、あのクレーンゲームの戦利品だった。何が取れたのかもよく見ないまま、紙袋に突っ込んで忘れてた。ちっこくて丸っこいそれは、どうやらハムスターのマスコットらしい。ちょいとタレた目をつむって、ぽかんと開いた口からは前歯が二本覗いてる。小さい両手でひまわりの種を持っていて、これから食べるところ、みたいなポーズだ。なに太郎に似てなくもないが別物で、確かに可愛い。
「僕、これがいい」
 神谷さんは、ほわあっと笑ってそう言うと、早速自分の鞄につけた。
「いいんすか、それで」
 なんだか拍子抜けしてしまったが、当の御本人様は至極ご満悦だ。
「うん。ありがとね」
 とか、可愛く言われちゃったからいいか。目を細めて笑う顔は、そのマスコットに似てなくもない。俺もつられて笑った。


 因みにパーティー関連グッズはエクステンドの備品となり、チョコと日本酒はスタッフで美味しくいただいたそうな。おっぱいはやっぱりあの彼がゲットしたらしく、野獣の歴史がまた1ページ。

〜 END 〜

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