17歳の悪魔

□12 シカク
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「わぁ…」

ふぶきは箸を持つもじっとそれを見つめるだけで、特に行動を起こさない。

「食べないのか?」

「…卵?えっと、これどうやって食べるの?」

そうか、本当に知らないんだな。

俺はそんな彼女を前に、卵を割って皿に入れる。
そして、それをといて見せた。

「これに浸けて食べるんだ。」

ふぶきは大きく瞳を開くと、それを実践する。
俺が先に鍋から具材を取って食べてみせると、彼女も同じようにした。

それが何だか親の真似をする子供のようで、自然と破顔する。

「これって牛肉だよね!?こんなに沢山…凄い。」

彼女は肉を箸でつまむと、黒目がちの瞳を輝かせていた。
そして意を決したようにそっとそれを小さな唇に持っていくと、パクリと口の中に入れる。

「…おいしい。」

そうポツリと呟くと、ふぶきは顔をほころばせて笑った。

その素の笑顔に不意に心臓が高鳴る。


ああ、まだ少女ではないか。
こんなに幼く愛らしい。

あんなことをして、体と心が少し汚されてしまっただけだ。

まだ完全には失われていない、心に眠った少女性。

やはり守られる立場にあるのだ、この少女は。
せめてこの笑顔だけは…守らなければ。


その笑顔に改めてその意識を取り戻すものの、あまりに彼女に近づきすぎるのも危険だ。

飲み込まれてしまう。
この天使のような少女らしさと悪魔のような狂気の二面性に。

とにかくやはり暫くの間は、というかこの家に泊まるのはまずい。

なるべく彼女といる時間を減らす。

そして、あくまでも部屋を貸すというこの関係を、この距離感を保たなければ。

俺はそう心に誓うが、この瞬間は本性を知った今でも彼女の素の笑顔に心洗われざるおえなかった。
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