猫のしっぽ
□11 かんそく
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仁王を待つ間私は外のベンチに座ってスケッチブックを手にしていた。
特に性根が真面目というわけでもないが、流石に受験生となった今ではこんな時間も惜しい。
そういうわけでとりあえず目に付いたものをなんでもいいから描いておくかとそれを手に取ったはずだったのに、気づけば私の手は完全に止まっていた。
幸村だ。
コート内に彼を見つけてしまえば、何故か私の視線はそこばかりにいってしまうようになった。
それは私の知っている彼ではない彼がそこにいるからだろうか、そんな違和感から私の視線は彼を追っているのだろうか。
まあその理由が何にしろ、本当に意外な彼がそこにはいた。
私の知る彼のイメージでは運動はそう得意そうに見えない。
色白だし体弱そうだし、男のくせに儚く美麗な彼だ。
運動部なんて暑苦しそうな感じじゃないし、どっちかというと文化部の方が合ってそうなものなのに。
なんて多少失礼なことを思いながらも、そういえば幸村って部長なんだっけ?と根本的なことを思い出す。
うん、たしかに素人目に見ても彼が抜群に上手いことくらいよくわかる。
本当人って見かけによらない。
だってテニスをしてる幸村は暑苦しいってわけじゃないけど、爽やかってわけでもない。
なんていうか、情熱的だ。
そっか、好きなんだ。
テニス。
そんなことをぼんやりと思えば、とうに日は暮れて部活はお開きとなっていった。
「おう、待たせたの。」
部室の方から出てきた仁王を見上げる。
そこにいた彼は傍目にはいつもの調子だったけど、私の心臓はきゅっと緊張を走らせた。
私は大して描いた形跡もないスケッチブックと鉛筆をカバンに収めると、それを手にして無言で立ち上がる。
そのまま二人正門の方へと向かうも、待たせてすまんかったの、とか寒くなかったか、とか特になんの変哲もない会話を繰り返して学校を出た。