猫のしっぽ
□15 かのじょ
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それ以来私は不思議と美術室に通うこととなった。
めんどくさいと思う反面、その足取りは軽くそこへ訪ねては彼の絵を見る機会が増えた。
そうする内に彼は肩の力が抜けたようで、最近では楽しげに描くことが出来ているように思う。
そんな頃私はたまたま日直の仕事でゴミ出しをしに外へ出た時、彼の姿を目にした。
彼は何やら女の子と話していた。
幸村はまああの容姿だから女子に騒がれているのは元から知っているし、女の子と話していることくらい珍しくはないと思ったけれど、何となくいつもと雰囲気が違うような気がした。
少しの好奇心で、丁度彼から見えない位置からその様子を伺う。
女の子は見覚えのない、遠目に見ても申し分のないとても可愛らしい子だった。
色素の薄いふわふわの茶色の髪をツインテールにして揺らしている様は、女の身からしてもずっと見ていたくなるほど愛らしい。
話している内容は聞こえないが、そのツインテールも相まってぴょんぴょんと弾むような雰囲気が快活で明るい子のように思わせた。
それを見るとすっと胸の底が冷えて、なるほどという気持ちがすとんと収まった。
彼の表情はよく見えなかったが、普段何でもない女の子と話している様子とはまるで違って見えて、特別なんだろうと何の疑いもなく思った。
彼女ってやつかな。
今まで思いもしなかったけどよく考えてみれば、あの幸村のことだ。
いないと思う方がどうかしてる。
見た目も抜群だし、運動もできる、おまけに性格もいいときたもんだ。
ふいに私はそんな奴とつるんでたのか…と少し目眩がした。
「何しとん?」
ふと背後からそんな風に話しかけられ、びくりと肩が跳ねる。
慌てて振り返ると声通りの人物がそこに居て、私はそのままその場を立ち去ろうと彼の側を横切った。
「…ゴミ出し。」
すると仁王は両手に1つずつ抱えていたゴミ箱をひょいと片方奪い取った。
その反動でばちりと目が合うと、仁王はそれをにやりと歪めて視線を逸らした。
その視線の先を見やれば、さっきまで私が見ていた彼らの姿があり内心げっ、と声が出る。
「あれ、見とったんか?」
見てない、とかいうと見てたって事にされるんだろうな。
これまでの経験上それは分かって素っ気なく言った。
「うん、可愛い子がいたから。」
それは本当だ。
実際廊下ですれ違えば目で追ってしまうだろう。
目の保養に違いない。
「ほぉ…確かに。」
「知り合い?」
依然としてにやにやしている仁王のその様子に何となく勘が働く。
「ん〜?どうじゃろ。」
しかし当然この捻くれ者が簡単に口を割るわけもなくはぐらかしにかかった。
その一連の流れを見てまたこれは長くなると、私はさっさとゴミ捨て場の方へ歩き出した。
「気にならんの?」
奴と距離を開くことは不可能のようで仁王は私の後をサクサクとついてきながら、話を切ろうとしている私にその話題を投げかける。
「可愛い女の子は誰だって気になるんじゃない?」
そう言うと急に後ろから影がさして不審に思い振り返ると、その長い足で追いついた彼が上から見下げていた。
「のどかちゃんも可愛ええよ。」
「そういうのいらない。」
何を言いだすかと思えばそんなことを言いながら人の頬を抓って笑うその手を邪険に払う。
私は何も僻みを言っているわけじゃないのだから、下らないお世辞など必要としてないのだ。
ゴミ捨て場前で広げられた大きな袋にゴミ箱を逆さにして中のものを全て捨てさってしまうと、頼んだわけではないが一応仁王に礼を言う。
すっかり軽くなったゴミ箱を持って教室に戻る途中、何度も幸村と彼女の姿が思い起こされてふと思った。