夏のラナンキュラス
□14 invader
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結局偵察の意味を教えてもらう為に引き返したくるみだったが、当然頑固な彼女は他人の言うことに聞く耳を持たずだ。
時すでに遅し。
気づいた頃にはもう彼女は自力でその地へと足を踏み入れていた。
くるみは自身にふりそそぐ視線を物ともせずに、方向を知らないままずんずんと歩いて行く。
そしてそんな彼女を不運にも目撃してしまった少年が1人。
見知らぬ制服だ。
自主練習をしようと少し早めにコートへ向かっていた少年は突如現れた少女にピタリと足を止めた。
少年と少女の目がパチリと合う。
少女は少年が抱えていたラケットバッグを目ざとく見つけると、嬉しそうに目を輝かせてぴょこぴょこと少年の方へと駆けていった。
「ねぇ、キミテニス部なの?」
「ああ…はい。」
「やっぱり!いまからコートにいくんでしょ?わたしもつれていって!」
少年は未知の生命体でも見ているかのような目で彼女を見る。
そしてどこかで見たことのある制服だと思い直すと思考を巡らした。
「…あの、立海の人ですか?」
「うん、そうだよ!」
ああ、やっぱり。
けれどどうして立海生がこの氷帝の校内にいるんだろうと、少年は至極真っ当な疑問を抱く。
「えっと、どういうご用件ですか?」
いろいろと尋ねたいことはあるものの、まずは基本的な質問から口にすれば少女の純な瞳が少年を射抜いた。
「わたしテニス部に用があるの。だからテニスに用があるんだよ!」
「え…ああ、そうですよね。」
答えになっていないその解答に少年は戸惑いながらも笑顔を浮かべる。
「じゃあ、案内しましょうか?」
もともと優しさと少しの天然さを持ち合わせた少年だ。
普通ならもっと追求すべきだが、この少年は案内すればそれもわかるかと軽く受け止め、彼女の申し出を受け取った。