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□あなただけ
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ねぇ…薮…
もし俺が好きだって言ったら、
軽蔑する?
それとも嫌いになちゃう?
俺は臆病だから、そんなこと言えなくて。
「これから、どうする?」
「あんたの好きにしていいよ」
俺が今付き合ってる相手は同じ事務所の先輩で、何度か共演したことのある人だ。
好きだて告白されて、ふたつ返事で付き合うことをOKした。
「まさか、伊野尾くんが付き合ってくれるなんて思いもしなかったよ」
「俺、あんたの顔が好きなの」
甘えるようにすり寄ってみる。
嘘は言ってない。
笑った顔が、薮に似てたから。
でも、ただそれだけで感情なんてどこにもなくて…
「ホテル行く?そこでルームサービス頼んでいいから」
「うん、そうする」
突然、目の前が暗くなってキスされてることに気づく。
閉じた唇に舌が侵入してきて、貪るように絡みついて強く吸われる。
俺も応えるように彼の舌の動きに合わせた。
目を閉じれば、
いつも心に薮がいて。
俺がキスしているのは…
愛おしくて堪らない人だと思えば、バカみたいに上昇してくる体温。
「がつっくなよ…っ」
「伊野尾くんが、可愛い過ぎるのがいけないんだ」
「あっ…ッ…ここじゃ…やだっ」
狭い車の中での空間で、伸びてきた彼の手をやんわりと払いのける。
「続きはベッドでして……」
「分かった。じゃあ、いっぱい可愛いがってあげるよ」
そう言うと彼は頬に軽くキスをしてきた。
エスコートされながら車から降りて、女じゃないんだからと軽く心のなかで舌打ちすた。
これが、薮だったら嬉しいのに…
「どうした?気分でも悪い?」
「ううん、なんでもない。それより早く行こう」
辿り着いた所は、何度か足を運んだ見慣れたホテルだった。
エレベーターに乗り込むとまたキスされて、服のうえから胸の突起をなぞられる。
「ちょ、んっ…んんぅ…っ」
ズボンの中に手が入ってきたのには、正直言って驚いた。
彼の手を握り締めて、ぴったりと未着した身体を突き放す。
「そんなに焦んなくても、俺は逃げたりしないよ?」
「分かってても、君が欲しくて堪らないんだよ」
そう言うと、彼はやんわりと笑った。
愛されてると実感するたびに、募っていく罪悪感に胸が締め付けられる。
俺はあなたを、利用してるだけなのに…
すると突然、ポケットのなかの携帯が震えた…
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