STORY
□裏と表と偽りか真実か ☆★
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「ありがとうございます」
そう言って体温計を受け取ろうと手を伸ばした。そんな時だった…
《綺麗な指…》
微かに聞こえた声に伊野尾はパッと彼の方を向く。でも、彼は伊野尾の方なんて見向きもせずにせっせと近くに置いてあったパソコンとにらめっこをしていた
さっきの言葉、本当に彼が思っていたのだろうか…
聞き間違いかもしれない
こんな「人になんて興味あるわけないでしょ?」とでも言いたげな彼がそんな事思う筈がない
「え、なんですか?」
「ほえ?」
パソコンから顔をあげはしなかったが、上目遣いで見た彼に、変な声を出す
「ずっと俺の事見てますけど」
「あ、いえ」
「気分悪いんですか?」
あからさまに嫌そうな顔をして言う彼だが、本心で心配はしているようで正直安心した
ここでウザイとでも思われてみろ?これから気まずくなる
「いや、大丈夫です」
「そうですか」
《見んなよ、恥ずかしいな》
「ほえ?」
「は?」
「すみません」
そう言うとせっせと渡された体温計を脇に挟むと静かに外を眺めた
雀が2匹近くの木に止まる。そして、また飛び立つ姿を俺はずっと眺めていた
左足はリハビリをしない限り治る事はない。そう思えば苦しくなってくる
なんで、こんなことになったんだよ。人を助けたら、自分自身が犠牲になった
こんなことになるんだったら、
「助けるんじゃなかった…」
つい口にしてしまった言葉に、伊野尾はバッと口を塞いでパソコンと向き合っていた彼に目を向ける
「やっぱり、そんな風に貴方をも思うんですね」