キミを離せない
□キミを離せない〜12
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〜彩side〜
彩「……だる」
身体に何キロものおもりがぶら下がってるみたいに重い。だるい。しんどい。
これは熱あるよなぁ…あるやつよなぁ…と思いつつ、私は体温計を手に取った。
38.2℃だ。
完全に熱やんけ。疲れかな…
やとしても仕事を休む訳にはいかない。
ここずっと仕事が長引いていてろくに睡眠時間もとれていない。その上寝落ちが多い。ベッドでちゃんと寝ようと思ってはいるんやけど、どうしてもやめられない。
…それに、夢莉との一件から食事が喉を通らないのだ。夢莉への罪悪感と、どうにもできない自己嫌悪に駆られて食欲が全くない。そこらへんにあるウィダーインゼリーを無理やり口の中に押し込んでなんとか過ごしている日が続いていた。
…そりゃこうなるよなぁ
一応マネージャーさんに連絡を入れておこう。無理はしないので、仕事はやらせてください、と。
仕事の用意をするが、頭が痛すぎてやばい。ふらっとよろけてしまったけど、近くの家具を無事掴めた。
…この調子で大丈夫かな。
私は家の前までタクシーを呼んだ。あまりこういう手は使いたくないけど今日ばかりは仕方ない。今日は朱里とふたりで雑誌の撮影だ。朱里に風邪が移らないように、しっかりマスクをし、仕事場に着くまで冷えピタをおでこに貼る。ひやぁ〜と冷たい刺激がとても心地良い。
タクシーが目的地に着いたころには、少しだけ熱が和らいだ気がする。
さあ、今日もやるぞ。仕事中はアドレナリンでなんとかやり過ごすんや!
朱「おはー。今日もマスクしてんの?」
彩「おはよ。いやぁ、すっぴんやからな」
朱「顔色ちょっと悪い気するけど、大丈夫なん?」
彩「大丈夫大丈夫、ありがとう」
朱「無理だけはせんといてな?」
彩「もち」
それから、着替えたあとメイクをして頂いて早速撮影に入った。
「いいねえ、いい表情だよ〜」
「もうちょっと顔横向けようか〜」
「やまもっちゃん、表情かたいよー。笑って笑って〜」
「お、いい感じ〜バランス最高だよ〜」
撮影中は雑念を捨てて自分の世界に入り込むよう専念する。それでも、ちらちらとあの人のことが頭に浮かんでくる。
…もし、夢莉がこのスタジオにおって、見守ってくれていたなら…もっと良い顔を作れたりするんかな
「やまもっちゃん、めちゃくちゃ切ない顔頂きましたあ!」
彩「え、あ…はい!」
一瞬横目で朱里からの視線を感じたけれど、朱里は何事もなかったかのように撮影を続けていた。
「じゃあ、次…ふたりで手を握ってみて〜」
「「はい」」
朱里は躊躇することもなく、指示通り私の手を取った。
朱「…あっつ…え?」
びっくりした朱里はまた確かめるように私の手をぎゅぎゅっと掴んできた。
朱「まさか、さや姉朝から熱あったん?」
彩「…いや、」
朱「無理したらあかんっていったやん」
「どしたどした〜、大丈夫か〜?」
彩「あ、大丈夫です!お願いします!」
朱「さや姉!」
彩「もうここまで来たんやから、今更やめられへんって…これ終わったら大人しく帰るから」
朱「…はあ、まったく………お願いします!」
なんとか撮影は最後までやり遂げることができた。そして、今は朱里に半ば強制的に休憩室のソファに寝かされている。
朱「無理したらあかんって言ったやんか…」
彩「…仕事休めへんくて、」
朱「はぁ…」
盛大にため息をつかれた。やけど、朱里も私を心配してくれての事だ。感謝しなければ。
朱「なぁ、さや姉」
彩「ん?」
朱「夢莉のことやけど」
夢莉という言葉を聞いただけで、私は熱のことなんか忘れて身体をガバッと起こして前のめりになっていた。
彩「は?!なんか言ってたん!」
朱「ちょっと、熱なんやからとりあえず寝なさい!」
渋々また寝かされるけど、私の耳はこれでもかってくらい開いて朱里の言葉を待つ。
朱「…夢莉から聞いたけど、別れたんやって?」
朱里も知っていたらしい。
彩「うん…」
朱「病人にこんなこと言いたくはないんやけどさ……さや姉最低やで」
彩「知ってる、んやな」
朱「なんなら、私はその場面にまで遭遇してますから」
彩「…まじ?」
朱「夢莉がどんだけ傷ついたか、…分かってるん?」
彩「……」
朱「ま、私は第三者やからとやかく言えへんけど。今回の件は圧倒的にさや姉が悪いから。
……たとえどんな理由があったとしても」
これが普通の反応だろう。
きっと朱里は美優紀との件も知っている。その上でこうして私に説教をしてるんだ。
朱「こんなやつ私なら許したくないけどな〜」
まるで夢莉は許したいと言ってるような口ぶりで少しドキドキした。それを隠すようにツッコミを入れる。
彩「口悪っ」
朱「てかさ、話変わるけどちゃんとご飯食べてる?」
朱里は毎回核心をついてくる。
彩「…ま、まぁ、なんとか」
朱「それ食べてないやつ」
彩「忙しいんやって…」
朱「また痩せたやろ?さや姉のことやから、カロリーメイトとかゼリー食ってんのちゃうん」
ギクッ
朱「それ、ほんまに身体壊すから。…もう壊してるけど」
彩「…わかってるよ」
朱「食欲無いん?」
彩「すこし、ね」
朱「はぁ…」
またため息つかれた。なんやねん。
彩「幸せ逃げるぞ」
朱「あんたらの幸せが、な?」
彩「私の幸せを逃がすな!」
朱「みるきーの卒コンの練習も始まってるんやから、早く熱下げてな」
彩「…うん」
朱「あと、」
彩「ん?」
朱「夢莉のこと考えて仕事をおろそかにするな」
彩「…すみません」
朱「ほんまに、あんたらって何者?似すぎてない?」
彩「どういう意味?」
朱「さや姉がこんかったら、こっちはこっちで苦労してんねん。早く顔出しに来なさい」
彩「いや、やからどういう……」
朱「とにかく!みんな待ってるから。ちゃんとご飯食べるんやで、チェックするから」
彩「は、はい…」
全く、もう…と言いながら朱里はYouTubeの編集に言ってしまった。