キミを離せない

□キミを離せない〜10
2ページ/2ページ


彩「行くでっ!」

みるきーさんを無視して、私の腕を掴んだ彩さんは楽屋を出た。ずんずん歩き、手を離すことは無いまま小さな会議室の中に入れられる。
あれ、暗いままだ。

…どうやら、電気をつける気は無いらしい。薄暗い会議室の中で、静まり返ったこの空気は今の私にとってとてつもなく重い。苦しい。
ごくん、と唾を飲みこむ音を聞かれたかもしれない。

彩「…夢莉、昨日はごめん」

改めて謝罪を言われる。

『だい、じょうぶ、…』

彩「じゃないやろ」

パシっと突っ込まれた。

彩「…傷付けた。夢莉のこと、大切に出来なかった…守れなかった……ごめん」


そんなふうに言ってくれるなんて思ってもみなくて、なんと言ったらいいかわからなかった。彩さんがどんな顔をしてるのかさえ分からない。だから、何も言えない。

彩「美優紀とは、な…」

言いにくそうに口を開いたが、何を言うのか一瞬で分かった。

『知ってます』

彩「え?」

『どんなご関係か…知ってます。だから言わないで下さい。聞きたくないです』

彩「え、っちょ…」

『今まで何も言わなくて、ごめんなさい。

もしかして………私から言い出されるの、待っていたんですか?』

彩「なんの、ことだか…」


…あぁ、もうこのタイミングしかない。この自分で作り上げたこの空気。

今しか……ない。



『別れましょう』

彩「…は……?」

勢いで私は自分の首にかかっているネックレスを外した。

…こんな鎖で繋がっていたって信じていたあの頃が懐かしい。

もう目が慣れてきて、私が何をしたか察したらしい。

彩「なにしてるん!!」

『もう、別れたんでこれいらないですよね…彩さんも外してください』

彩「嫌や」

『外してください』

彩「嫌や」

『外してってば!』

彩さんに近づき、首に手をかけようとしたが、それは力強い彩さんの手によって阻まれた。

彩「なんで急にこんなことするん」

『それは彩さんが一番わかってるんじゃないですか』

一瞬怯むのが分かった。それを合図に一気にせめたてる。

『私って彩さんのなんなんですか?……道具じゃないです。ただのお飾りでもないです……ちゃんと意志を持った人間です!!』

彩「……夢莉」

『気づいてないとでも思ってた?』

違う。こうじゃない。
私が望んでいるのは、もっと、穏便に、誰も傷つかないように。

なのに、

なのに、


『人の弱みにつけこんで……その好意を貶して踏みにじったのは彩さんです!私がずっと好きでいると思いました?あんな声聞かされて?彼女は私なのに、いつも隣にいるのはみるきーさん。こんなの、どう考えても…おかしいでしょ……』

右の手に収められたネックレスを力強く握りしめる。


…こんなはずじゃなかった。


彩「違うねん…夢莉」

いつまでも否定する彩さんに腹が立つ。

『何が違うの?みるきーさんに抱かれてたでしょ?ふたりでコソコソしてたの知ってるから!この耳で聞いたから……何度も何度も…』




彩「…………ごめん」




何も言い返してこないのが、事実だと物語っている。


カンッ、ジャラン


『彩さんもそれ、捨てて下さいね』

ネックレスを近くのゴミ箱に投げ捨て、私は部屋を出た。










あーーー、もう

…終わったんだ。




「これを外す時は別れる時やな〜」


このセリフが頭をよぎる。
そして…その通りになった。当時はそんな縁起の悪いことって笑い飛ばしていた私が、この縁を断ち切ったんだ。

こんな苦しい想いをするなら、ネックレスなんてあげなきゃよかった。

一ヶ月記念だなんて、お祝いする性格でもないのに……




その後の収録でろくなコメントを残さなかったのは、言うまでもない。





もう引きずるのはやめよう…

がんばるんだ、太田夢莉。


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ