キミを離せない

□キミを離せない〜11
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あれから一週間が過ぎた。

私は個人のお仕事が多くてメンバーと絡むのが無かったため、夢莉とは一切話していないし会っていない。


〔夢莉頼むから、会って話がしたい〕


〔既読だけでもつけて欲しい〕


〔真実を聞いて欲しいねん〕


〔何度もごめんな〕



なんてことを送り続けて一週間だ。
さすがに重すぎるしウザいやろう。

夢莉がいなくなった今、胸にぽっかりと穴が空いてうまく仕事に意識が集中できていないのが現状だ。プロとして、私情を挟むのは絶対にしてはいけないことやけど、どうしても夢莉のことを考えてしまう。


肝心の美優紀からは連絡はない。
夢莉と別れたあの日、私は美優紀を呼び出した。



美「なあに、彩ちゃん」

彩「夢莉と別れた」

美「えっ、そうなん!…残念やったね、彩ちゃん」


あまりにも露骨に嬉しさを滲ませている美優紀につい手を出してしまった。



バシンッ


美「っい、た……なにすんの!!」

彩「ふざけんな」

美「は?」

彩「美優紀のせいや。全部こうなったのも……ぜんぶ…ぜんぶっ」

美「な、いてるん」

彩「泣いてへん…ッ!」

美「…泣いてるやん」

彩「っ…自分がしたことわかってる?」

美「…分かってんで。でも、私だけが悪い訳ちゃう」

彩「は?どう考えても、美優紀のせいやろ…!」

美「わたしの誘惑に負けたのは誰?彩ちゃんやろ…?」

彩「…っ」

美「私やってな!ほんまに彩ちゃんのことが好きやねんで…!夢莉ちゃん夢莉ちゃんっ、って言われて辛かった。苦しかった」

彩「そんなん…ッ…しらんて…」

美「私が誰よりも彩ちゃんのそばにいた。誰よりも近くで見守ってきた。やのに、間に入り込んできたんは、夢莉ちゃんやんか」

彩「っ…」

美「私も悪かった…こんな汚い手を使うのも気が引けた……分かってる、どんなに酷いことしたのかも分かってんねん…!一番わかってるんは自分や!!」

彩「…っ、逆ギレされても」

美「もう戻れへんかった……一度入り込んだら抜け出せんようになってもて、、、こうなったらとことんやってしまおうって……」

彩「でも、ほんまにやったらあかんことくらい…わかるやん」

美「わたしは、……ずっと前から彩ちゃんのことが好きやった。彩ちゃんの隣はずっと私で、この気持ちを伝えんくても、これからもずっとずっと私の隣におるって思ってた。…やけど、そうじゃなかった。いつの間にか、隣には後輩の子が立ってた」

彩「……」

美「なんで…?今まで支えてきたのは私やし、彩ちゃんが辛かった時に隣におったのも私やった。やのに、なんで…なんで違う子が隣に立ってんねん…!

私が辛い時……隣には、誰もおらんかった」

彩「美優紀…」

美「何も上手くいかんくて、負けそうになったこともあった、もうこの仕事辞めようかと思った時もあった。やけど、その時に彩ちゃんは私の隣におらんかった。………なんでなん?彩ちゃんが辛い時はそばにおったやんかッ……なんで…おらんくなってしもたん………っ」


美優紀は泣いていた。

何も言えなかった。そんな事情を抱えていたことすら、知らなかった。

しらないことだらけだった。


美「…っ、だから、わたしは最後のワガママを……彩ちゃんにぶつけてしまってん」

彩「…さい、ご?」









美「私な……卒業するねん」




え………?


なんて?


卒業……………?





美「卒業する前に、彩ちゃんを手に入れたかった。…どうしても。……やから、無理やり…こんなふうになってしまって……ごめんなさい」



今の私の頭では処理しきれないほどの衝撃で、何も答えられなかった。


美「卒業のことはまだ誰にも言ってへんけど、近々…発表するつもり。…ふたりのこと…邪魔してごめんね……ほんまに」

彩「急…すぎるやん、なんの相談もなく」

美「決めててん、23歳になったら卒業するって」


ずっとライバルとして戦ってきた美優紀が、NMBから離れてしまう。

そしてそれと共に、前まではかんがえらなかった美優紀のごめん≠ェ、身体の中にようやく落ちてきて、ストンとどこかに収まった。

前は恐怖しか感じなかった美優紀の笑顔が、なぜだか綺麗だと思ってしまった。


美「夢莉ちゃんとのこと、ここまでするつもりやなかったのに……ごめんね」

彩「…もう、わけわからんわ」

美「私のこと、好き?」

彩「は?」

美「ふふっ、わかっとるって。無理やりなんて無理って分かってたから。

彩ちゃん、私はもうおらんくなるからさ…夢莉ちゃんとより戻しぃや」

彩「散々ぶち壊しといて……そんなこという…?」

美「へへっ、ごめんごめん。夢莉ちゃんやったら分かってくれると思う。私から連絡もするつもり」

彩「……美優紀、ごめんな」

美「…?」

彩「気づけんかった、美優紀が辛い時…そばにいてやれんかったし…話も聞いてあげれんかった。……これはキャプテンとして、失格や」

美「もう……彩ちゃんはストイックすぎんねんで」

彩「でも…」

美「これからもみんなのこと、ちゃんと世話したってな?…私はもう見れへんから」

彩「………うん」

美「彩ちゃん…私のこと、嫌い?…ふふ…聞かんでも分かるけどさ……」


美優紀はいつも突然だ。


美「あのな、嫌いでええから、夢莉ちゃんのことはちゃんとして欲しい。…じゃないと、罪滅ぼしもなんもできやん…今更何言ってるんって感じやけど……ほんまに、心の底から思ってる」


美優紀は真面目だ。
何考えてるか分からへんのが美優紀やけど、根はしっかりしてて自分を持っている。大切なことは大切だと誰に対してもハッキリ言える。そんな所が私は好きだ。

……こんなことされてまでこう思ってしまうのは、今までずっとそばで美優紀を見てきたからかな。



彩「美優紀のこと、……嫌いにはなれへん」

美「もーー、彩ちゃんはどこまでもお人好しやな」

彩「…わるかったな」

美「ふたりが仲直りせんかったら、私も卒業しようにもできやんわ」

彩「……いつ卒業するん」

美「一ヶ月以内かな」

彩「はっ………や。そんなんすぐやん」

美「あーーー、みんな悲しんでくれるかな?」

彩「そりゃそうやろ」

美「彩ちゃんも悲しんでくれた?」

彩「…おどろいた……し、寂しいよ」

美「ふふっ、嬉しい。……卒業コンサート、泣いたらあかんで?」

彩「泣きませんーーー」

美「ふふっ、じゃ…わたしはこれで。夢莉にも直接謝っとくから…心配しやんといて」

彩「…あぁ」




…なんてことがあったわけだけど。

夢莉から返信はない。

美優紀…話しておいてくれたんちゃうんかよ……




忙しくてしばらく夢莉に会えそうにないし。

いつになったらちゃんと話ができるかな…


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