キミを離せない

□キミを離せない〜12
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次の日にはなんとか熱が下がった。
それでもやっぱり食欲はない。またウィダーインゼリーでやり過ごそうかと一瞬考えたが、朱里の言葉を思い出し、食欲がなくても何か食べるように努めた。
そのおかげか、体調を崩すことは少なくなり、その後も順調に仕事に励めている。まだやっぱり寝落ちは多いけど。



そして今日はNMBで全体合同練習だった。私は一度もみんなと練習はできていないけれど、事前に送られてきた動画を見てフリは全部頭に入っている。


彩「おはようございまーす」

「「おはようございます!!」」

レッスン室に入ると後輩たちが元気に挨拶をしてくれた。

美瑠「さや姉〜、ひさしぶりやな!」

彩「美瑠はダンスちゃんとできてるか?笑」

美瑠「できてます〜」

彩「また泣きじゃくったらあかんで。みるきーのステージやからな」

美瑠「わかってるって!」

凪「さやかさん!大丈夫ですか!?」

彩「おぉ、急やな…なにがや」

凪「無理しすぎて倒れたんですよね!」


周りがざわつき始めた。


彩「いや、倒れてへんがな。誰や嘘教えたん」

ちらっと朱里を見たら、てへっと頭に手を当てて悪びれる様子を見せず、ポーズしてきやがった。朱里め…


凪「もう、無理しちゃだめですよ!」

彩「大丈夫やって、もう今はピンピンやし。あれはちょっと熱が出ただけやから」

ほんまですか?とぶぅぶぅ言いながら凪咲はダンスの練習に戻っていった。
周りを見渡すと、奥の方で夢莉が紗英ちゃんとダンスの確認をしているのが目に入った。生存確認できただけでも、今の私には嬉しい。…あとで少しだけでも話せへんやろか。


そして、それから私も少しフリの確認をしていたら、美優紀が入ってきた。


美「みんな、今日は初めての合同練習になります。良いものに仕上げていきたいので、分からへんとこがあったり、いまいちイメージが掴めないところがあったら気兼ねなく聞いて欲しいです。今日はよろしくお願いします!…あ、彩ちゃんからもひとこと言う?」

彩「あ、、じゃあ…そうやな。

えーっと、私はみんなと全然練習出来てなくて初めての練習合わせになるんやけど、キャプテンとしてフリ揃ってなかったり、気になるところがあったら確認していきます。まずは今日お世話になる先生方に挨拶からしましょう。今日はよろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


掛け声に合わせてひと通り踊り、フォーメーションの確認後、全体的な動きも話し合うことが出来た。できるだけ美優紀のしたいことを忠実に表現できるようにしたい。他のメンバーのフリ入れもよく出来ていてスムーズにことが運んでいった。

そして、今日は何事もなく終わると思っていた矢先のことだった。急に大きな声があがった。


「夢莉ちゃん!」


その声に反応してバッと後ろを振り返ると、ぐったり倒れている夢莉が目に入った。


朱「夢莉、しっかりして!夢莉…!」

夢莉が倒れた…?
考えるまもなく私の体は動いていた。

彩「ちょ、すまん!…っ、夢莉、夢莉!」

そばに駆け寄って声をかけたが反応はない。夢莉の目元のくまが酷い。…無理のしすぎだ。

彩「今から救護室に連れて行ってくる…っ」

朱「いや、でもまだ練習が…キャプテンがおらんくなったら」

彩「そんなこと言ってられへん!」


私は落ち着いていられる訳もなく、そのまま夢莉をお姫様抱っこした。


彩「ごめん!扉あけて!」

「は、はい!」

彩「朱里!救護室って何階やっけ?」

朱「1個上の階やで!」

腕の中の夢莉を見ると、額にじっとりした汗が浮かんでいた。苦しそうに少し唸っているのが聞こえた。息も荒い。

彩「夢莉、すぐ楽にさせたるからな」

そう夢莉に声をかけたあと、少し小走りで救護室に向かう。

後ろの方で美優紀から声をかけられたのがほんのり耳に届いた。

美「こっちは大丈夫やから!」

そう言っていたように思う。

私は夢中で階段をかけのぼり、救護室を目指す。激しく動きすぎて振動が夢莉に伝わらないように配慮しながら足を動かす。はやく、はやく、はやく…!

なんでこんなに無理したん…
夢莉はもともと自分の中になんでも抱え込むくせがあった。昔からそうだ。私が無理やりご飯に誘って話を聞いたり、どうにかして悩みを打ち明けさせなければ自分からは何も言わへん。

私だけやなくても、他に相談する人くらいおるやん……

夢莉と別れたあと、私は夢莉のことはなんにも知らへん。どんな生活してたとか、食生活だって、仕事ぶりだって、、、なんにも知らへん。まさか、私とのことですごくすごく悩ませてしまってたんじゃないかな…

そう考えるだけで申し訳なくなって、どうにもできないもどかしさで息が詰まる。

彩「すみません…!」

足で救護室の扉をガンガン蹴った。乱暴すぎるけど、そんなことを考えてられる余裕もなかった。

「はいはい!どうしました?」

中から出てきた女の人に早口で夢莉の状況を伝える。

「分かりました、ここに寝かせてください」

救護室の先生は、夢莉の脈拍や体温、血圧などを細かく測っている。

彩「…どうですか、大丈夫ですか…?」

「ええ…これは疲れですね。脂汗もかいているので、精神的に疲労が溜まっています、回復しても無理しすぎないように伝えてください」

彩「わかりました。ありがとうございます…」

「少し寝れば、意識は戻りますよ」

彩「はい、ほんまにありがとうございます!」

「どうされますか?そばにいますか?」


どうしよう…

そばにいたい。

やけど、私はキャプテンやし、戻ってスタッフさんと会議やらなんやらがまだまだ残っている。

彩「いつ頃目を覚ますか分かりますか?」

「んーー、あんまり予測できないわね」

彩「そう、ですか…」


普通ならば戻るべきなんだろう。
目を覚ましてから様子を見に来たとしても問題は無い。


…やけど、私にはそんなことが出来ない。今逃したら……もう夢莉と話すことすらできない気がした。


彩「残らせてもらってもいいですか…?」

「ふふっ、いいわよ」
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