第一部 … voyage

□プロローグ
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じりり、じりりり、じりりりりりり。

機械音じゃなくて、ベル式の目覚まし時計を使っているのは今はもう、私だけの気がしてならない。何処の家も、ベットの脇ではピピピ、という機械音が鳴り響いている事だろう。私だって、機械音時計に買い換えたい。でも、時計って、電池を変えれば何度だって何時までだって使える。だから買い換える理由はどこにも見当たらない。結果、ずるずると機械音の時計へ想いを馳せて五年、ずうっとベル式時計を使っている。

もそりと夜遅くまで働かせていた体を動かし、うるさく鳴り響く愛用している目覚まし時計を睨む。あぁ、そうだ。この時計、機械音時計と違ってボタンがないんだ。後ろ側のスイッチをオフにしないと鳴り止まない。面倒臭い。なんて思うのも、かれこれ数百回。仕方ない、目覚まし時計に金を使ってちゃ、金欠になるのは目に見えてる。あと十年向こう、この時計と共に生きていくんだなぁ。

これまた重たい腕を持ち上げ時計のスイッチをオフにする。途端音はなり止み、私の部屋には静寂という睡眠に欠かせないものが舞い降りる。あ、無理、寝そう。二度寝を決め込んで寝返りを打…とうとした。したんだ。でも、突然の浮遊力。そのすぐ後に、腰への猛烈な痛み。

「いっっだ!!」

ドスンなんて軽快な音じゃ表せないくらい鈍い音で、そんなに太ってたかな、なんて横切る。腰への痛みに目尻に涙を溜めながら、目覚まし時計をまた睨む。こいつ、笑ってる。二度寝しようとするからだとか言って、笑ってやがる。覚えとけ、この野郎。ギリッギリまで電池変えてやんないからな。

ちょっと手足を動かすだけで、節々から古ぼけた玩具みたいな、ギギギって音がしそう。仕方ない、帰ってきてから死んだように眠り、今起きて。睡眠時間はなんとたったの四時間。こんなの、疲れ取れるはずないよね。動きそうにない体に鞭を打ち、無理矢理に動かして着替える。お気に入りのキュロットにTシャツ。ダサいって友達に言われても、めげずにこの服装で遊びに行くんだ。

顔を洗い、ボッサボサの無駄に長い髪を梳かして玄関からリビングに向けて「行ってきます」と声を掛ける。朝ごはんはコンビニで買おう。途中で寝ちゃっても、友達は許してくれるはず。あぁそれと。コンビニへ寄ったのなら、少年誌を立ち読みしよう。


私の足元で、スニーカーがじゃり、と小石を踏んだ音を知らせた、日曜日の朝。
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