そらもよう
□曇天
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数日後。
空閑君と出会ったあの日からは、特に目立った出来事も無く、平穏な毎日が続いていた。
あれから空閑君とは、見かけることはあってもいつも絶妙な距離なので、話しかけることも手を振ることも出来ず、接点はまるで無し。
……だから何だって話なんだけど。
あんな出会い方をしたから、またトラブルに巻き込まれてないかな〜とか、色々心配はしてしまう。
それに、あの真っ白い髪の毛の奥から見える綺麗な赤い瞳。ぱっちりと目が合った時の光景が、頭に焼き付いて離れなかった。
「なにボーっとしてんの。もしかしてまた遅くまでゲームしてた?」
いつの間に考えに耽っていたのか。隣にいた優に咎められ、ふと現実に帰ってくる。
今考えていたことをわざわざ説明するのも面倒くさいので、まぁね〜なんて適当に返事をすれば、タイミングよくあくびも出てきた。
今日は、正隊員が総員で警戒区域内の調査の日。
月に1回こうやって全員で調査をして、誘導装置の不備が無いかとか、以前の警戒区域内でのネイバーとの戦いで崩れてしまった危険な建物が無いかを調べる。
私たち皐月隊は、街の西部担当だった。
皐月“隊”……っていっても、私と優しかいないんだけどね。
ちゃんと結成当初はオペレーターとスナイパーがいたんだけど、方向性の違いってやつでおさらばしてしまった。ただ、オペレーターはいないとどうしても不便な時があるから、栞には臨時で入ってもらっているけど。
ってことで、現在は私と優のアタッカー二人組っていう、超近接攻撃部隊になっている。
武器は、優が弧月を変形した大剣。私はスコーピオンを変形した両手剣スタイルで戦っている。
ちなみに一応A級だから、そこそこ実力はある……と思う。ちゃんとランク戦してないし、A級のどの辺なのかは分かんないけど。
「ねぇ優〜、ひま〜」
「任務中だよ、陽」
私は、いつもと違う優の対応に面食らってしまい、開いた口が塞がらない。
いつもなら一緒にしりとりしてくれたりとか、クイズしたりとか、ちょっとしたおふざけに付き合ってくれるはずなのに。
あ、分かっちゃった。
とりまるに何か吹き込まれたな……?
大方、「任務を完璧にこなした人にはあとで城戸司令からめちゃくちゃ美味しい桃が届くらしいですよ」とか言われたんだろう。……いやまあ、そりゃあ届いたら嬉しいわ。桃。
で、優はそれを信じ込んじゃって嬉しそうだったから、言い出せなかったか。
それか、とりまるが本当にご褒美をあげる気になっちゃったか。
あいつ優と付き合ってからそういうとこ甘くなってない?!なに!?優の事大好きかよ!
ここまで二人の事情を推測出来てしまう自分にも嫌気がさすけど。
滅びろリア充!という念を込めて優をキッと睨めば、当の本人はクソ真面目に任務をこなしている。
少しからかってやろうと、私は優の背後に回った。
「ねえねえ優」
「……なに」
背後から耳元でぼそぼそと話しかければ、心底不愉快そうな返事。
「もうとりまるとチューした?」
その一言を言った瞬間、後ろからでも分かるくらい首が真っ赤に染まっている。
面白いくらい素直な反応に、私は笑いをこらえきれず噴き出してしまった。
「もう!からかわないでよ!」
やっと優がこちらを振り向いた瞬間、準備しておいたケータイのカメラを優に向ける。
しかし、すぐに優にカメラのレンズを手で隠されてしまい、画面は真っ暗になってしまっていた。
あの真っ赤な顔、とりまるに見せたらもっと面白かったのにな。
「あ〜もう写真撮れないじゃん」
「いらないでしょ!ほら任務中はしまって!」
優にケータイを取り上げられ、再び差し出されたそれを受け取ろうとした。
その時。
『緊急警報。緊急警報。ゲートが市街地に発生します。』
サイレンと共に、無機質な声が市街地に響いた。