そらもよう

□出日和
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「あ!ポテトのクーポンあるよ!」

「え!じゃあ帰りに……あ、でも今日レイジさんにオムライスをリクエストしちゃったんだ」


 じゃあLサイズ1個だけ買って半分こしようか、なんてくだらない話をしながら、私と優は訓練のために個人ランク戦ブースへと向かっていた。
 別に支部でも訓練はできるんだけど、いろんな人と戦いたいからこうしてたまに優と個人ランク戦をしにくる。
 今日は誰と戦おっかな〜、駿あたりなんか居そうだな〜。
 そんな事を考えながら、ブースの中にどんな面々が揃っているのかじ、っと値踏みをしていた。


「あ!陽先輩に優先輩!」


 まだ男の子にしては少し高い声に振り向けば、まるで犬っころのように一直線に向かってくるこの可愛いのは、緑川駿。
 やっぱり来てたんだ。ほんと個人戦好きだな〜。


「ね、今日も二人とも俺と10本勝負してくれるんでしょ?」

「もっちろん!さ〜善は急げだ!ほら行くよ駿!」


 優は早々に駿と個人ランク戦を始めるようで、駿を誘ってスタスタとブースへ走って行ってしまう。
 駿も、次は陽先輩ねー!なんて、優の後を付いていきながら振り返って手を振って行ってしまった。

 ……さて、二人は行ってしまったし、誰か知り合いはいないかとフロアにいる人をぼーっと眺める。

 すると、突然館内放送が流れ始めた。

 なんだろう、警報ではないからネイバーが出たわけじゃなさそうだ。
 今までネイバー出現以外に放送なんて流れたことがないので、周りの隊員たちもざわついていた。


『ボーダー全隊員に告ぐ。只今より、ラッド一斉排除作戦を開始する。三門市内に散らばったラッドを見つけ、直ちに破壊するように』


 ラッド一斉排除作戦?しかも全階級の隊員共通の指令なんて初めてだ。
 周りの隊員たちも突然の指令に戸惑いを感じているようで、まだ数人しか外へ出ていく者はいなかった。


「お、いたいた」


 そこに背後から聞きなれた声が聞こえ、振り返る。


「迅さん!何なのこれ?ラッド一斉排除作戦ってなに?!」


 1人でどうしたらいいか分からなかったところに知り合いがいた安心感からか、早口でまくしたててしまう。
 そんな私を宥めるように迅さんは頭にぽん、と手を置いたあと、ゆっくりと話し始めた。


「いや〜、実はこのラッドってやつが、最近のイレギュラーゲートの原因らしいんだよね」

「……どういう事?」

「こいつは人が多いところを感知して、そこにゲートを作るネイバーらしい。だから、戦闘能力も無い。」


 ああ、だからC級もこの作戦に参加してるのか。と腑に落ちて納得する。


「あと数百は居るらしいから、ボーダー隊員だけじゃなくて、市民にも協力してもらってかたっぱしから片付けていくってよ。
 ……って事で!お前が遅刻回避のために身に付けた俊足でチャチャっと倒してくれよ!」

「最後余計だよね!?」


 迅さんは少し大きめの声で話していたため、それを聞いていた周りの隊員達もパラパラと任務へと向かっていく姿が見えた。
 じゃ、がんばれよ〜なんて、いつの間にか迅さんの姿も遠くへ消えてしまう。


「おーい!」


 そこに、奥の通路から駿と優が手を振りながら歩いてくるのが見える。今の放送を見て、個人戦を中断して出てきたんだろう。
 私は二人と合流して、任務を開始することにした。









 夜、玉狛支部。

 ラッド一斉排除作戦は無事終了し、新たなイレギュラーゲート出現の心配も無くなった。

 楽しみにしていたレイジさんのオムライスをお腹いっぱい食べて、リビングでいいとこのどら焼きを食べながらみんなでまったりしている。


「いや〜、まさかあんなのがイレギュラーゲートの原因だったなんてね」


 どら焼きをもぐもぐしながら、栞が呟く。


「どうせ迅のサイドエフェクトでしょ?もっと早く分かったんじゃないの?」


 小南は迅さんをジト目で見ながら、最後の一口を頬張った。


「いや、本部に報告したのは俺だけど、実際原因を突き止めてくれたのは別の奴だ。」

「え、誰よ」

「それはまだ内緒」


 迅さんはそう言うと、どら焼きとぼんち揚げを同時に口に入れる。
 おいしいのかな、それ。


「内緒って……ボーダーの人間じゃないの?」

「それもまだ内緒」

「なによもったいぶっちゃって。どーせまた趣味の暗躍で何かしたんでしょ」


 小南はそう言って口を尖らせる。
 多分、自分が知らない所で何か動いているのがちょっと気に食わないのもあるんだろうけど……
 小南が一番嫌なのは、その暗躍のせいで迅さんが皆の知らない所で傷つき、1人で抱え込んで辛い思いをしている事だ。
 仲間としてそれはみんな同じ思いだから、こうやって小南がつっかかっても何も言わない。


「さーて!俺は疲れたから寝る!おやすみ〜」

「あ、ちょっと!迅!」


 迅さんはそう言って、手をひらひらさせながら部屋を出て行ってしまう。
 膝の上でぎゅ、と静かに拳を握りしめる小南の姿をそっと見つめて、最後の一口を口に入れた。
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