そらもよう

□心の空
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「おはよ〜」

「おは……うわっ」


 今日は珍しく朝のHR前に登校。席に着いた私は既に前の席に座っていた優と挨拶を交わすなり、ぎょ、とした表情を向けられた。


「何?」

「いや、どうしたのその顔」


 まるで化け物を見るかのような優の視線にもう一度ケータイの真っ暗い画面で自分の顔を見てみれば、朝に鏡で見た濃い隈のいかにも寝不足です、という顔が映っていた。


「何かあったの?」


 そう。

 私はあの後カップを片付けてまっすぐ部屋へ戻った。
 戻ったのはいいけど、そのままベッドに潜り込むなり数分前の自分の痴態と失敗と失言と全てを思い返してうわあああ!!!とジタバタしていた。
 放心しては叫んで、放心しては叫んで……を繰り返してたら、外はいつの間にか明るくなってた。つまり寝てない。

 だって、あんな、あんな……!!!


「落ち着けって!何があったの!?」


 優に肩を掴まれてはた、と気付けば、片手に持っていたレモンティーの紙パックがぐしゃぐしゃになっていた。


「あの、ですね……」


 こんな事、他の人に話すような事なのか。別に悩んでるわけでもないし。
 ……でも誰かに話さないと、このまま自分の中で膨れ上がってパンクしそうだった。

 
「ん〜、なるほどね」


 そのまま優に促されるままぽつぽつと昨日の事を白状すれば、優は一点を見つめながら考え込んでしまう。
 ただ私が遊真の事かっこいい、って言っちゃって、それが聞かれたのが恥ずかしくて。それから、おれの事好きなのって聞かれて、それは違うって答えた。そっか、こうやって思い返してみると意外と大したことない事ないな。人に話すことでこうも心の中が整理されるものなのか。そう考えると話して良かったなぁ。ありがとう!優!
 なんて心の中でスッキリした私とは対照的に、首を傾げながら唸る優を眺めていると、優はぽつりと私にこう聞いた。


「陽はさ、遊真の事かっこいいと思ってるの?」

「は?」


 いや、今そう言ったじゃん。そんな思いを込めて見返せば、優はまた考え込むように顎に手を当てる。


「かわいいじゃなくて?」

「かわいい?遊真が?」


 そう言い返せば、優はまたふ〜ん……なんて意味深な返事を返して黙り込んでしまう。
 遊真がかわいい……か。いや、後輩としてって事なら話は別だけど、流れ的に容姿がって事だから多分違う。
 かわいい、ってどういう事だろう。真っ白のふわふわ髪の毛で小動物みたいに見えるってこと?身長が低いから話すときにちょっとだけ上目遣いになるのがかわいいってこと?なんて、自分で遊真のかわいいポイントを挙げてみてちょっと納得。確かにかわいい。
 でもどうも腑に落ちない。優はさっきから何を考えてるんだろう。ちら、と様子を伺えば、優はさっきまでとは違って真っすぐ私を見据えて話し始めた。


「あのさ、私含めて多分ほとんどの人が遊真の事かわいいって思ってんだよね」

「うん」

「それはあれだよ?見た目的に、って事だよ?」

「分かってるよ?」

「でも陽は遊真の事かっこいい、って思うんでしょ?」

「うん。ってかかわいいって思ったことない」


 ……あ、嘘。保健室に一緒に行ったときかわいいな〜って思ったんだ。

 そう答えれば、優はますます納得したかのようにうんうん、と頷いてこう続けた。


「最初はかわいい、って思ってたけど、今はかっこいいって思うんだ?」

「うん」

「それってさ、遊真の事男として見てるからじゃない?」

「……ん?」


 一瞬、優の言っている意味が理解できなかった。

 男?男、って男?なんだか頭の中でゲシュタルト崩壊したみたいに、うまく意味が入り込んでこない。

 そんなごちゃごちゃと整理の付かない頭を必死に動かして考えていたのに、教室内はあわただしく音を立てている。1時間目はHR。どうやら担任が来たようだった。
 話の結論もうまくつかないまま、優はなぜか私に優しく微笑んで前を向いてしまう。なんだか頭を使うのに疲れてしまった私は、少しだけ考えるのを諦めて、頬杖をつきながら大人しく先生の話を聞くことにした。
 

「さて、今日は文化祭の出し物を決めよう」


 そっか。もうそんな季節か。

 うちの学校の文化祭は中学と高校が併設したほぼ中高一貫のような学校であるのに加えて、ボーダー隊員たちが多く通っているため一般のお客さんの出入りが多く、結構地域の中でも一大イベントとして取り扱われている。
 特に近年はボーダー本部が公式のスポンサーについたおかげで、より大きな規模になってきていた。


「うちの学年は……ステージ発表だな」


 出し物は学年ごとに決められていて、1年生はお化け屋敷等のアトラクション、2年生はステージ発表、3年は飲食店とある程度決められていて、その中で好きなお店や発表が出来る仕組みになっている。


「じゃあ、まず何をやるのかを決めたいと思います」


 いつの間にか教卓には2人の学級委員が立っていた。司会進行交代したのかな。
 とにかく人の良い学級委員長は、出してくれた案は本採用されなくともなるべくちょっとずつ採用したがるので、そこらへんの調整でうちのクラスの話し合いは毎度死ぬほど時間がかかる。
 前も、体育祭のスローガン決めで放課後まで残って話し合ったんだ。

 スローガンでさえあんなに時間がかかったのに、文化祭の出し物となればどれだけ時間がかかるか分からない。
 こりゃ〜長くなるぞと悟った私は、せめてあくびは堪えつつ今のうちに寝不足を解消しようと静かに机に突っ伏す事にした。
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