そらもよう

□初明かり
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 ボーダーは、時折開かれるゲートを通じて襲ってくるネイバーから、市民を守る組織として活動している。しかしそれは、“あくまで”の話に過ぎなくなってきていた。
 というのも、最近では「市民を守る」というイメージが根付き、ボーダーは正義の英雄として市民から期待されているためこういった事件事故のトラブルなんかを見過ごすことが出来なくなっていた。
 メディア露出も増えたし、意外と助けた人からは顔を覚えられていたりもするからね。
 まあ対応するっていっても、警察が来るまでの応急処置だとか、周りの人を宥めたりだとか指示を出したりとか、そんな感じだけどね。
 こういう事は特に本部から指令されたわけではないんだけど、やっぱり期待を背負って活動してる分、それぞれの責任感から自主的に始まった事だった。

 はじまりは確か、嵐山さんだったっけ。

 “助ける”って行為に慣れちゃうと、それが例え自分の役割じゃなかったとしても、自然と体は動いちゃうんだよな。なんて、ほんと漫画のヒーローみたいなことを言ってた気がする。
 過激派もいるけど、なんだかんだボーダーの人間はみんな根はお人よしだから、こういう活動から、世間から見たボーダーの役割とか、信頼がだんだん明確になっていったんだと思う。

 ……なんていい話をしたけど、私が今音がした方へ向かっている真の目的は、授業をサボるため。

 ルンルン気分で交差点を曲がると、そこには煙を出した赤い車と運転手であろう男の人。そして道路には、私がいつもやっているゲームの世界から飛び出してきたかのような、見慣れない白い髪の毛の男の子が座り込んでいた。
 今までの日常には少し異質なその髪色に無意識にもじっと眺めていた事に気付いて、止めていた足を再び走らせる。


「大丈夫ですかー!」


 通勤通学ラッシュからは少し遅れた時間。
人や車の通りもまばらな道を、声をかけながら近寄れば、車のバンパーが大きく凹んでいるのが分かった。
 こりゃあ結構派手にやったな〜なんて思いながら、座りこむ男の子へと声をかける。この車の損傷を見る限り、骨の一本や二本は折れているだろう。


「君、大丈夫?どこが痛い?」

「ああ、全然大丈夫です。」


 大怪我をして泣き叫ぶかと思いきや、その男の子はひょうひょうと答えると、スッと立ち上がり、ズボンの裾を払った。


「いや、け、結構激しくぶつかったよね……?どこか怪我してるんじゃ……?!」


 見れば、被害者よりも加害者の男性の方が顔面蒼白だ。何も知らない人が見れば、明らかに立場は逆。


「本当に痛いところない?我慢しなくていいんだよ?」

「いや、本当に全然大丈夫です。それじゃ」


 あまりの痛さに感覚が馬鹿になってて痛みを感じなくなっているんじゃないかとも思ったけど、そうでも無さそうだ。
 男の子は私たちに一礼してから、手をひらひらと降って、また何事も無かったように歩いていってしまった。

 ……たぶん、体が丈夫なのと、当たり所が良かったのと、受け身が上手い子だったのかな?

 呆然とその子の走っていく姿を眺めながら無理やり自己完結して、さてどうしたもんかと振り返れば、パニック状態なのは男の人の方だ。

 まずはこの人をどうにかしよう。

 と、私は予定を遅刻から1限欠席まで変更して、携帯電話のダイヤルを押した。
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