短編

□イルミさんとお正月
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いつもとは違っておめかしして、髪も綺麗に結って、綺麗な着物を着て、帯を締めて。鏡にはいつもとは少し違う私が映ってる。
今年はキキョウさんを見習って和風の正月を迎えようと思う。

「と言っても、今年も一人なんだけどね。」

いつも通りのがらんとした部屋が、少しもの寂しく感じた。ここまでおめかししたんだし、後で町に出てみようか。
その前に台所で作っていたお雑煮を食べることにしよう。私は器を取って、お雑煮の出汁を温める。

「リヒトのお雑煮はスープみたいなんだ。」

そうそう。キキョウさんがお雑煮の出汁は色々なものがあるって言ってたなあ。今回はお醤油をベースにした出汁にしてみたけど、今度作るときは味噌を使ってもいいかもしれない。……ん?

「オレにもちょうだい。」
「……ん?」

背後からの聞き覚えのある声にどきりとする。私はギギギギと音がしそうな動作で後ろを見た。するとやはり、予想どうりの人物が私の手元を覗き込むように立っている。

「……イルミ、さん?」
「や。あけましておめでとう、リヒト。」
「あ、あけましておめでとうございます。……あれ、幻覚ですか?なんでここに。」
「仕事帰りの通り道だから、ちょっと立ち寄っただけ。」
「鍵を、掛けておいたはずなんですが。」
「簡単に開いたよ。ここの鍵、ちょろいね。」

なるほど、ピッキングですか。
さすがゾルディック。鍵開けも教育されるんですね。そろそろ私のプライベートが危ないかもしれない。新年早々、転居を本気で考える。

「あ、餅は二つでよろしく。」
「はい。味は保証しませんよ。」
「ある程度なら食べれるから平気。それとさ、ミルキから面白そうなDVD借りてきたから後で見よう。」
「あっ、前から見たかったやつ!嬉しいです。ありがとうございます。」

思わず顔がほころんだ。
イルミさんは仕事に行く前から私のうちに立ち寄ってくれるつもりだったらしい。だって、そうじゃないとDVDなんて持ち歩いてる理由が見つからない。
外には出られそうにないけど、これはこれでいいお正月になりそうだ。

「あと着物、似合ってる。」
「え⁉ あっつっ!」

予想外の言葉に、今年初の赤面をした。ついでに火傷も。

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