短編

□イルミさんと雪うさぎ
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一面真っ白な雪景色。今日は寒い地域での仕事だった。ここはその仕事先へ向かうまでの中間地点だ。
地元では中々見られない雪景色に私は目を輝かせる。それに反して横にいるイルミさんは無感動な目で風景を眺めていた。

「すっごい綺麗ですね!」
「そう? こんなの普通じゃない?」

家が山にあるイルミさんは、こういった景色を見慣れているらしい。
ターゲットがいる場所まで行く為、私たちは雪道を歩いた。イルミさんは慣れているのかすいすいと進んでいくが、私は慣れない雪道に足を取られる。しかしそれはあまり不快ではなく、寧ろ新鮮で楽しかった。

「私はあまり雪を見たことがなかったので。あ、雪が積もったら雪だるまを作ったり雪合戦とかするんですよね。本で読みました。」
「……やりたいの?」
「……正直、少しだけ。すみません、時間ないですよね。」
「まぁ時間はないけど、雪うさぎくらいならできるんじゃない?」
「雪、うさぎ?」
「そう。こうやって……。」

イルミさんはかがんで、足元の雪をひとすくいした。その雪をぎゅっと握って楕円形を作る。何を作っているのだろうと、私はイルミさんの手元を覗き込む。
彼はその辺に落ちていた葉っぱと小さな小石を、その楕円型の雪に取り付けた。
全貌が見えて私はあ、と声をもらす。

「うさぎだ。」
「昔はよくキルたちにせがまれて、よく作ってたんだよね。」
「すごい! 私も作ってみてもいいですか?」
「うん。オレはその辺で待ってるから。」

そう言うとイルミさんは雪が積もっていない岩に腰掛けた。ギリギリまで待ってくれるらしい。分かりにくいけど優しいのだ、この人は。

「おおう、冷たい。」

初めて触る雪は、とても冷たい。ふわふわしてるかと思いきや握れば硬くなる。不思議だなあ。……あ、良いこと思いついた。


─────


「イルミさーん! 出来ました。」
「早かったね。」

岩から腰を上げたイルミさんはどれどれと私の足元を見た。すると彼は先程の私と同じようにあ、と声をもらす。

細い木の枝で長い髪を表現した雪うさぎ、もはやうさぎかとは思えないフォルムの雪うさぎ、雪でツンツンの髪を表現した雪うさぎ、木の枝でおかっぱを表現して長い葉っぱを帯にした雪うさぎ。
我ながら上手くできたのではないだろうか。

「これ、オレ?」
「はい! 左からイルミさん雪うさぎ、ミルキ君雪うさぎ、キルア君雪うさぎ、カルトちゃん雪うさぎです。
お時間、ありがとうございました。」
「もういいの?」
「はい。」
「じゃ、そろそろ行こうか。」
「了解しました!」

先に歩きだしたリヒトを確認して、イルミは優しい手つきで何かを地面に置いた。

「あれ、イルミさん。どうしたんですか?」
「なんでもない。」

二人が立ち去った道の脇。六体の雪うさぎが並んでいる。緑の実を目にした雪うさぎが一番左に。特徴のない小さな雪うさぎが一番右の少し離れた場所に置かれていた。
 

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