短編

□ヒソカとオムライス
1ページ/1ページ



「はーい、お待たせ♡。」

目の前に置かれたオムライスを見て、私は顔を両手で覆った。泣きたい。
まさか我が住居にヒソカを招き入れる日が来ようとは。

こいつにだけは、住居の場所を知られないように努めていたはずだった。
気配も消して、ついてくるようなら撒いて、しつこい時はホテルに泊まって。それだけ努力してきたのになぜ、こいつが、ここに、いる!
しかもいつの間にか不法進入なんかして、オムライスなんか作って! 家の中だからと油断してたから。仕事の資料まとめに夢中だったから。様々な言い訳が頭から湧いてくるが、すでに後の祭り。何もかも遅かった!

「食べないの? 自信作なんだけど♢。」
「なんで……。」
「んー、キミにボクの手料理を食べて欲しかったから♢。」

語尾にハートがついているような口振りで、イラっとする。

「違う。なんで私の家を知ってるの。」
「ああ、それなら簡単。クロロの跡をつけてたら、偶々見つけたんだ♢。」
「……あの馬鹿。」

クロロが依頼を申し込む際、私の家まで訪ねてくるのは別段珍しいことではなかった。奴も注意はしているはずだが、今回はヒソカの方が上手だったらしい。
奇術師は私の向かいに座り、掴み所のない笑みをつくってこちらをじっと見ている。奴の側にオムライスはない。つまり食べるのは私だけ。こいつは毒なんか使わないだろうけど、怪しさ全開で食べる気は起きない。

「そんなに警戒しなくても、なんにも入ってないよ♡。」
「……いただきます。」

まあ、入ってたとしても私には関係ないか。毒、効かないし。使われた食材も勿体無い。
私は恐る恐るオムライスをスプーンですくい、口に運んだ。その瞬間、ヒソカの口元が凶悪なほどに釣り上がる。

「まあ、ボクの(ピー)は入ってるけど♡。」
「ぶっ!っ、うえっ……ゲホッ」
「ウソだよ♢。」

反射的にオムライスを吐き出し、口をすすぎに行こうと立ち上がったとき、奴は腹をおさえながら笑いだした。
……コイツ、遊んでやがる。きっと、さっきのウソは本当だ。私はまんまとしてやられたらしい。

「キミちょっとチョロすぎない? ボク、心配になってきちゃう♢。次の仕事、一緒にヤってあげようか?」
「おまえ、ほんと、帰れ。おまえと仕事なんてお断りだ。」
「ん〜、残念♤。じゃあ今日は笑わせてもらったし大人しく帰るよ。またね。」
「二度と来るな!」

ヒソカが窓から飛び降りて立ち去ったのを確認して、鍵を厳重にしめて、私はやっと一息つくことができた。オムライス、どうしよう。すぐに捨てるという結論にいかないあたり、私もまだまだ甘い。

とりあえず、転居を本気で考えることにする。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ