短編

□イルミさんと休日
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飛行船に乗って少し賑やかな町に出た。空港から少し歩いたところに、大きな図書館がある。行きつけの場所で、人も多すぎなくて丁度いい場所。そこで本を読んで、お昼時にはカフェで何かを食べて、そしてまた図書館に行くのが休日の日課。
そして今日の休みも本を読んで、変わりなく過ごすはずだった。

「姉ちゃん、美人だねぇ。ちょっと付き合ってくんない?」

あれを見るまでは。

「……。」
「おっ、無視? 大丈夫、大丈夫。なんにも怖いことしないから。」

道の端でチャラい男がナンパしている黒髪の線が細い美人。その女性を見た瞬間、私の胸は高鳴った。

腰まである黒髪は日に照らされてとても綺麗で、肌は白くてきめ細かい。うっすらと唇にひかれた赤い口紅と上品な黒のワンピースがさらに肌の白さを際立たせている。そして大きな瞳は少しだけ細められていて、整った眉は微かに不快そうに顰められていた。

男はただの一般人で、その女性から出ている僅かな殺気に気付かぬまま不躾にその細い腕を掴んだ。それと同時に女性の殺気も膨れ上がる。
私は長い髪を帽子に仕舞い、急いで男女の間に割り込んだ。

「あー、すんません。この子、俺のなんで離してもらえませんかね。」
「なんだ、てめえ。」
「この子の彼氏だ。さっさと手を離せ。」

男の腕を握る。ミシッ、と人体からしてはいけない音がした。とどめに軽く睨みつけると男は明らかに怯えた様子を見せる。

「いってっ! 分かった、離す、離すから!」

パッと手を離すと男は脇目も振らずに逃げていった。まったく、感謝してほしいくらいだ。私が割り込んでいなかったら、もうこの世にいなかったんだから。
男の手から解放された女性、イルミさんは握られていた腕を埃を払うかのような手つきではたいた。その動作さえ美しい。

「……彼氏で通用しちゃった。帽子被っただけなのに。」
「貧乳だからじゃない?それと地味な格好。」
「貧乳……。」

貧乳かぁ。自分の胸にそっと手を当ててため息をついた。無いものはない。

イルミさんはポケットから取り出そうとしていた針を仕舞った。文句ありげに見つめてくるその瞳には私が映っていて、なんだか照れてしまう。いつも見下ろされているから、同じ位置で目が合うなんて変な感じ。

「別に助けなくてもよかったのに。誰にもバレないように殺すつもりだったから。」
「ただの雑魚にイルミさんの針を使ったら勿体無いでしょう。」
「リヒトは甘いね。」

私は帽子を脱いで、小さくため息をつく。
きっと彼が使うのはどうでもいい針だろうけど、それでもあんな男がイルミさんの念を受けるなんて、なんかやだ。

「甘いとかじゃなくて……純粋に、あれに針を使われるのは嫌だったんです。
これからお仕事ですか?」
「うん、夜にパーティー潜入。
久々に身体いじるからさ、今は慣らし中だったんだよね。リヒトはオフ?」
「はい。久々の休暇です。」
「じゃあちょっと付き合って。」
「え。」
「暇でしょ?」
「あ、はい。」

女の私よりも女性らしいイルミさんに引っ張られながら、心の中で図書館に別れを告げた。いつもと違う休日も偶にはいいかもしれない。それがイルミさんと一緒なら尚更。

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