短編

□イルミさんとお祭り
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今夜は表通りが騒がしい。
人がいっぱいで鬱陶しいから裏通りを使ってるけど、後ろを歩くリヒトが凄くそわそわしてる。

「……リヒト。」
「あ、はい。なんですか?」
「行きたいの?」
「いっ、いえいえいえ! そんなことは全く全然ないです!」

嘘、下手だよね。
行きたいなら素直に言えばいいのに。ま、別に後は帰るだけだから時間はあるんだけど。
オレはポケットの携帯を取り出して電話をかけた。

「あ、もしもしゴトー? 迎えの時間遅らせて。ちょっと用事できたから。」
「えっ、イルミさん⁉」
「行きたいんでしょ。ついでにキルたちにも何か買って帰ろう。」
「〜〜っ! ありがとうございます!」

リヒトは溶けるような笑顔になる。本当に溶けそうで心配になる。
駆け足で表通りに向かっていく姿が、子供みたいだった。

「イルミさんイルミさん! 凄いです、お店がいっぱいあります!」
「お祭りだからね。」
「お祭り! ということは、このお店は出店というものですね。初めて見ました。」

出店の光に照らされて、リヒトの目がキラキラ輝いていた。偶にリヒトの職業を疑う。
どちらかといえば表の世界で生きてるような雰囲気さえ感じる。もしリヒトがそっち側に行くようなら、俺が連れ戻さないとね。こいつが生きていけるのは俺たちの側だけなんだから。

「あれは何ですか?」
「綿あめ。買う?」
「はい! じゃあキルア君たちの分も買ってきます。イルミさんは?」
「オレはいらない。ここで待ってるから。」
「じゃあ行ってきます。」

リヒトは人混みに紛れてすぐに見えなくなった。あれ、あいつ戻ってこれるのかな。
リヒトの消えて行った方向を暫く見ていると、綿あめの袋を掲げたリヒトが戻ってきた。
買いに行く前とは違って頬が赤く色付いている。やっぱり、あの人混みの中を歩くのは大変だったらしい。小さいしね。

「お待たせしました! はい、このぶどう飴はイルミさんに。」
「……オレに?」
「口元が汚れないからいいかなぁと思ったんですけど……いりませんか?」
「自分とキルたちの分だけでよかったのに。」

そう言いつつもリヒトの手からぶどう飴を受け取ると、リヒトは花がほころぶような笑顔になる。ほんと眩しい。

「もういいの?」
「はい。大満足です。」

これくらいで満足するなんて欲がないな。
リヒトが喜ぶ姿を見ていると、この人混みの不快さくらいどうでもよくなった。

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