短編

□ゴンと41点(学パロ)
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「リヒトさーんっ!」

背後から聞こえてくる馴染みのある声に廊下を駆ける音。
周りの同級生たちがまたか、という顔で声の主を見ている。いつもいつも期末になると騒がしくして申し訳ない。
一つため息を漏らし、くるりと振り向くと同時に腹に衝撃が走った。初めはこの衝撃に耐えきれず後ろに飛んでいたが、今では逞しく受け止められるようになってしまった。
後ろ足にグッと力を込め、その場に踏みとどまると腕の中には私よりも幾分背の低い、髪の毛ツンツンボーイが収まっている。

「ゴンくん。」
「なあに?リヒトさん。」
「きみ、もう少し勢いを落としてくれないかな。そろそろ出るよ、私の内臓。」
「ごめんなさーい。」

うちの一年生であるゴンくんとは中学の頃からの顔なじみで、よく勉強を見てあげていた仲だ。
テストが返却されたその放課後。彼が三年生の棟を元気一杯に走る姿は、もはや私たちの間では名物となっている。
まっすぐでキラキラした黒い目が私を映している。へへっと笑う彼に反省の色は見られない。可愛いな、こんちくしょう。

「あっ!そうだ、リヒトさん!これ、見て見て!」
「……わぁ。」

いやほんと、わぁ、としか声が出ないよ。
廊下を歩く同級生たちが道すがらどれどれ、とゴンくんによって掲げられた回答用紙を覗き込む。
おおぅ、うわあ、あっちゃー。など、反応は似たり寄ったりだ。

「ギリギリ、欠点とらなかったんだ!」
「いやいやいや、ほんとギリギリじゃないっすか。」

うちの学校の欠点は40点。それに対してゴンくんのテスト用紙に書かれた点数は41点。決して褒められた点数ではない。
よくよく見れば、私が教えた箇所だけはなんとか正解しているようで、それだけはホッとした。
そういえば、この科目は時間の都合でかなり速いペースで教えたっけ。もしや、ペースが速すぎてついてこれなかったのだろうか。

「それでね、分からないところ教えてほしいんだけど、いい?」
「いいけど、この不正解の量だと時間かかりそうだねえ。クラピカあたりに教えてもらったほうが早いんじゃないかな。あ、キルアくんとかさ。」
「えー、リヒトさんの教え方が一番分かりやすいんだもん。」
「ほう。それでこの点数ですか。」
「こ、これだけだよ!他は全部60点以上取れたから。で、でも、ごめんなさい。」

幻覚だろうか。ゴンくんの頭にしょぼんと垂れた犬耳がついているように見える。
ちょっとからかいすぎたか。

「怒ってないよ。
じゃあこの後、図書室に行こうか。」
「……いいの?」
「いいよ。こうなったら徹底的に解説といきましょう!」

表情がパァっと明るくなる。
コロコロと変わるこの表情が私は好きだ。
ゴンくんは堪らずといった様子で、再び私の腰に抱きつく。
同級生たちの表情が微笑ましげなものに変わる。中には息を荒げてズキュゥンしている奴もいたが見なかったことにしよう。

「ありがとう、リヒトさん!」
「厳しくいくよ。」
「うん、それでもいいよ。オレ、リヒトさんに教えてもらうの好きだから!」
「すっ!?」
「じゃあまた後でね!」

またあの子は不意打ちで好きとか言う!
嵐のように現れて嵐のように去っていった一年生は、こうしていつも私を振り回すのだ。
少し熱くなった顔をパタパタと手で仰いで教室に戻ろうと足を向けると、友人が生暖かい目を私に向けた。

「いやぁ、お熱いですねえ。
おまえが一番青春してるわ。オレにもその春を分けてくれませんかねぇ。」
「レオリオに春なんてくるのかな。」

とりあえず友人がうるさいので軽く頭を叩いておくことにする。


──────


「あ、やっと帰ってきた。」
「キルア、まだホームルーム始まってない?」
「ないない。ギリセーフ。
またリヒトに会いに行ってたんだろ。」
「うん、勉強教えてくれるって。だから今日、一緒に帰れないや。ごめん。」
「りょーかい。……41点ねぇ。」
「ん、なに?」
「いや、それ得意な範囲だったはずだろ。しかも他は記号で回答するやつ。ゴンなら80点は取れるやつなのにおかしいなーって思ってさ。」
「へへっ。」
「……ま、リヒトには言わないでおいてやるよ。」
「ありがと、キルア。」

(だって、こうでもしないとリヒトさんを独り占めできないしね。)

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