短編

□イルミさんと眠り姫
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「おはよ、リヒト。
うわ、すごい快晴。なんでこんな日に限って屋外の仕事が入るかな。あ、リヒトは青空好きだよね。なんで?曇りのほうが無駄に体力奪われなくてすむのに。」


「じゃ、行ってくる。
帰りは多分、夜中になると思う。今日は母さんが新しい服を持ってくるってさ。なるべく早く帰るから、また見せて。たまには明るい色も着てみたら。きっと似合うよ。」


「さっきミルがこけてさ。あ、違う。
椅子が壊れて後ろに倒れたんだ。そう、重みで。そろそろダイエットでもさせたほうがいいと思う?ミケと追いかけっこでもさせようか。
……そ、まあリヒトならそう言うか。あいつはあのままでいいって、どれだけ甘いの。そのうち一人で歩けなくなるんじゃない?そうなる前にオレがなんとかするつもりだけど。うん、これも兄ちゃんの役目だからね。」


「今日は、カルトと折り紙してたんだって?
カルが嬉しそうに話してたよ。リヒトと一緒に遊べたって。綺麗に折れてる。これ、鶴?千羽も折ったんだ。
あとはこれに糸を通して一つにまとめていくんだっけ?誰が考えたんだろうね、こういうの。色の順番とか決まってるの?……わからないか。ちょっと手伝おうかと思ったんだけど、勝手にやって失敗しても嫌だし。
明日は休みだから、オレも一緒に手伝うよ。」


「キルが出ていった。
母さんとミルキを刺して。母さんは立派に育ってくれて嬉しいって言ってたけど、オレは心配だな。まだ色々とムラがあるし発展途上。外に出ても良いことなんてないのにね。
……うん、ミルなら大丈夫。ちょっと寝てればすぐ治るから。脂肪が厚くて助かることもあるんだね。母さんは元気すぎるくらいだから、リヒトが心配する必要はないよ。」


「キル、ハンター試験を受けにいったんだってさ。ミルが調べた。オレも仕事でライセンスは必要だから、キルを連れ戻すついでに取ってくる。しばらく帰れないから、留守番よろしく。
……じゃ、行ってくる。」


「ただいま。
久しぶり、ちょっと痩せた?髪も伸びたね。オレはもう少し肉をつけたほうがいいと思うよ、ミルぐらいまでとは言わないけど。髪も少し切ろうか。前髪が少し鬱陶しくなってきたんじゃない?オレは長いのも好きだけど、リヒトはどう思う?」


リヒトの口は紡がれたまま。オレは喋るのをやめた。
端正な顔は表情一つ変えることなく、ベッドに横たわったまま微弱な呼吸だけを繰り返している。
リヒトがこうなってしまったのは敵の念を受けてからだ。相手を強制的に眠らせる念。この念をかけたヤツはじっくり苦しめて念の解除方法を吐かせた後に殺した。
念を解くには自然と解けるのを待つか、優秀な除念師に解かせるかの2つのパターンしかないらしい。

「……いつまでオレを一人にすれば気がすむの。」

結局、どちらの方法でも解決できないまま3年が経った。
リヒトに繋がる沢山の管が、今日もリヒトを生かしている。

「早く目を開いて、オレを見て。
口を開いて、名前を呼んで。」

もう一度、おまえに愛してると言ってほしい。

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