鬼狩少女

□第8話
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鬼の身体は、ボロボロと崩れていく


(本当に、終わったんだ…)


月下は刀を鞘に仕舞い鬼に振り向いた少年の表情を見て息を飲んだ


(どうして…そんなに悲しそうな顔が出来るの…)


鬼の、無意識に差し出された大きな手を、少年はぎゅっと両手で握った


「神様どうか
この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように」


鬼は、涙していた

月下は鬼の背後に、とある風景を見た


『兄ちゃん』


小さな少年が、彼よりも少し背の高い少年と二人で手を繋いでいた


『兄ちゃん兄ちゃん 手ェ握ってくれよ』

『しょうがねぇなあ いつまでも怖がりで』


(これは…)


その光景に瞬きをした月下だったが、次には消えた鬼と赤髪の男の子が視界にあった


(きっと、さっきの鬼の記憶…彼が鬼になる前の…)


月下はそっと自分の手を見た

鬼を倒すという事はそういう事なのだ

人を喰らった鬼も、元は人間

悲しい過去を背負った鬼も中にはいるのだ

鬼を倒す事は、その魂の解放にもなるのかもしれない


(お父さん、お母さん…)


今、果たして生きているのかすら分からない両親を想い、静かに月を見た


「あ、あの!」

「…!」


突然赤髪の少年が月下に話しかけて来た

月下は素早く布を巻くと、木陰から少年の前へと歩み出た


「……(お、女の子だったのか…!)」

「……」


何か驚いた表情の少年だったが、月下は何も言わずに少年を見た


「目が…見えないのか」

「…いいえ」

「そ、そっか…」


月下のシンプルな返しに、少年は少し焦ったような返事をした


「さっきはありがとう…君の助けが無かったら、きっとあの攻撃を避けられなかった」

「……」

「えっと…その…俺は!竈門炭治郎!」

「……」


何も言わない月下に、炭治郎と名乗った少年は苦笑いをきめた

そして踵を返し歩き始めた彼女に、炭治郎は「ええ!?」と焦った声を上げたが、直ぐにはたと動きを止めた

月下が優雅に振り返ったのだ

まるで、踊り子が舞うかの如く


「……虚舟月下」

「え?」

「私の名前…虚舟月下」


そう言うと月下は、「お互い、生き残れるといいね」と呟き、闇に溶け込んでいった


「……不思議な子だ…すごく優しい匂いがした…でもどうしてだろう…どこか、悲しい匂いもしたのは…」


残された炭治郎は、幻のような不思議な少女にしばし頭を悩ませるのだった
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