赤ノキミ

□1
1ページ/1ページ



「○○、お前に新しい任務だ」


突然、私の上司兼パートナーをしている篠原さんに呼び出されたかと思うと、そんなことを言われた。


「はい!任せてください!!…ええっと、それで私は何をすれば…」

「今、京都で学生が立て続けに喰種に襲われている事件は知っているな?」

「はい、今朝のニュースでも見ました」



そう、この事件は今一番の話題といっても過言ではない。
突如現れた謎の喰種によって何人もの学生が犠牲者になった。

しかし、学生といっても被害者は皆高校生だった。

偏食家な喰種もいるとは聞いていたが、高校生のみを捕食するという者は今回が初めてだ。

犯人は特に腹部が好きらしく、いつも必ずそこばかり食べている事から、同一犯の犯行と見て間違いなかった。

何人か潜入捜査に行ったらしいが、誰も犯人を捕まえるには至らなかった。



「お前には今回、学生として高校に潜入してもらう
もう手配はしてあるからら明日にでも京都へ行ってもらうことになる

もしも対象が危険だと判断した場合は、その場で討伐してもらって構わない」

「わかりました」

「敵との遭遇率が低く、奴レートが詳しくは分かっていない…危険な任務になるかもしれんが、やってくれるか?」


私は、自分の手を見た。
幼い頃の記憶が蘇る。

……私の両親を殺した憎い喰種。

きっとこの先もずっとこの憎悪は消えることはない。

私はいつかきっと、人間が安心して暮らせる世界をつくる。

その為に捜査官になった。
その為にお兄ちゃんに色々なことを教わったのだから。


「やります。必ず犯人を捕まえて見せます!」


私が力強く頷くと、篠原さんは微笑んだ。




......................................................




「だから、しばらく京都に行くことになったの」

「そうか……」


目の前でお味噌汁を啜るイケメンは有馬貴将。
血は繋がってはいないが、私の兄のような存在だ。

両親が喰種に襲われた時、私はその光景を目の前で見ていた。
恐怖で動けずにいた私に喰種が手を伸ばした時、突然喰種がうめき声を上げて倒れた。

クインケが抜かれた瞬間の生々しい音、血の匂いは今でも忘れない。

私を助けてくれたのは、有馬貴将…お兄ちゃんだった。

それから私を保護してくれたこの人と一緒に暮らしている。

まあ、お兄ちゃんは元々捜査官だったお父さんのパートナーをしていたから、生まれた頃から交流はあったのだけど…。

そしてこの人は……


「ね、ねえお兄ちゃん…?」

「どうした」


気まずくて目をそらす私に、お兄ちゃんは目を向ける。

私は目をそらしたままお兄ちゃんを指差した。


「お味噌汁…こぼれてますが……」

「……」


お兄ちゃんは無言でお椀を机の上に置き、ティッシュで拭く。

私は台所に行って布巾を水で濡らし、また席に戻った。

そしてお兄ちゃんにそれを渡した。


「はい」

「ああ、すまない」


それを受け取ったお兄ちゃんは、まだ味噌汁の匂いが残るシャツを拭いた。


「クリーニングだね…洗濯で落ちるかな?」

「そうだな……」


無言で拭いていたお兄ちゃんは、突然ポツリと言った。


「しばらく会えないのか…」

「うん…て、まさかそれが理由でお味噌汁こぼしたわけじゃないよね…?」

「……」


こういう時のお兄ちゃんの無言は肯定だ。

そう、さっき言いかけたが、この人は極度のシスコンである。

両親と仲の良かったこの人は、毎日のように家へ来ていた。

まあ、そのおかげで私にも恩恵があった。
たくさん遊んでもらったり…とにかく、お兄ちゃんが若くして捜査官に見出されたのも納得がいく。

天然なところはあるが、この人は天才なのだ。


「毎日連絡するよ?」


着替えに行って戻ってきたお兄ちゃんに、私は言った。

それを聞くと、私を後から優しく抱きしめた。


「電話がいい」

「わかった。毎日電話する、どんな事があったのか報告する
楽しいことも、悲しいことも、全部話す」

「ああ」


それを聞いて納得したのか、お兄ちゃんは私から離れた。

別に、この行為は愛であっても家族愛だ。
幼くして家族を失った私に、彼は家族の愛を注いでくれている。

お兄ちゃんは私の頭に手を置いて言った。


「早く風呂に入って寝ろ、明日のために」

「うん」


私は頷くとリビングを出た。



「……」


○○が部屋を出ていった後、有馬は机の上に置かれている資料に目を通した。


「洛山高校…バスケの名門校か……」
次の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ