赤ノキミ
□2
1ページ/1ページ
「それじゃあ、行ってきます!!」
「ああ…クインケは持ったか?」
「持ったよ」
「資料は」
「大丈夫」
「それから…」
「お兄ちゃん……」
家を出る間際にそんなやり取りをしていた。
本当に心配性だなぁ。
確か、アキラちゃんと温泉に行くってなった時も、一週間も前からこんな調子だった。
私に対して、過保護すぎるのだ。
「すまない、気を付けてな」
「うん!」
私は頷くと、お兄ちゃんにハグをした。
昔からの習慣だ。
足元の鞄を手に取って私は外へ出た。
生活用品は1式、あちらに揃えてある。
これも篠原さんが手配してくれたらしい。
私は改めて篠原さんの優しさに感服した。
......................................................
「○○」
駅の改札に着くと、同期である真戸暁が立っていた。
同期ではあるが、アキラちゃんの方が年上だ。
だから、友達のような、お姉さんのような…そんな関係である。
「アキラちゃん!!」
私はブンブンと手を振った。
「もしかして、お見送りに来てくれたの?」
「まあな」
近くに行くと、ほんの少しだけアキラちゃんの方が背が高い。
「あれ、また身長伸びた?」
「それ会う度に言うな…変わってないよ」
「え、そうかな?」
「そうだ…それより、もう時間だぞ」
アキラちゃんは腕時計を見て言った。
「うわ!ほんとだ!!」
私はアキラちゃんに「またね〜!」と手を振りながら、走った。
「まったく、騒がしい奴だな…」
残された暁は、ひとり微笑んだ。
が、○○はすぐに引き返してきた。
「言い忘れてた!」
「なんだ?」
すると、○○は暁の手を取って笑顔で言った。
「亜門君と仲良くね!!」
「なっ!?」
「じゃあまたね!」
「お、おいちょっと待て!どういう…」
暁の制止も聞かず、今度こそ○○は走り去っていった。
暁は行き場のない手を握りしめた。
「あいつ…覚えておけよ…帰ってきたら奢ってもらうからな」
......................................................
「ほぉ〜!!ここが洛山高校か…」
私は目の前にそびえる大きな建物を見上げた。
正直なところを言うと、高校という場所はとても興味深いのだ。
私は、お兄ちゃんに助けられたあの日からずっと、喰種捜査官になると決めていた。
だから、自分の青春を全て捧げてきた。
必要な勉強はお兄ちゃんに教わり、あとはずっと体力作りやらなんやらしていたのだ。
よって、一瞬だとしても、私はこの場所で初めて青春を謳歌することになる。
私は楽しみで笑を零した。
......................................................
「お待ちしておりました」
「いえ、私が何としてでも犯人を突き止めて見せます」
「本当に、ありがたいお言葉で……」
少し若めの校長先生だった。
見た目的に50代前半といったところかな…いや、でも定年60歳って聞くし、先生の中では古参か…。
校長先生が何やら話しているのも聞かず、私はそんな事を考えていた。
「それでは…よろしくお願いします」
「お任せ下さい」
「あなたには、嘉賀先生のクラスに入ってもらいます」
「わかりました」
そう言って私は、入口で控えていた嘉賀先生のあとに続いて部屋を出た。
この先生も若いな…….20代後半…?
「喰種との戦いはらどのようなものなんですか?」
斜め前を無言で歩いていた嘉賀先生が、私の隣に並んで言った。
「えっと……あまりお話しできるようなことはないのですが…それと、私は一応この学校の生徒です
私に敬語は必要ありませんよ」
「そうですか、△△さん
どうか…生徒達のことをよろしくお願いします」
「はい」
先生が優しく微笑むのを見て、私は力強く頷いた。
いつの間にか、教室のドアの前まできていた。
「それじゃあ、僕が合図したら入ってきてください」
「は、はい……!」
大勢の前で自己紹介とか初めてな気がする…なんだか、緊張してしまう。
私が頷いたのを確認するとら先生はガラリとドアを開けた。
「転校生を紹介する」
教室に入り教卓の前に立つと、先生が言った。
なんだか温厚そうで良い先生だなぁ。
そう考えて先生を見ていると、こちらを見た。
私は教室に入り、前を向く。
「△△○○です
よろしくお願いします」
そして微笑む…完璧だ!完璧よ、私!
我ながら、自己紹介はいつも緊張して噛んでしまうにも関わらず、今回は無事に言い終え、しかも笑顔付きという最高のフィニッシュだ。
「か、かわいい…」
「かわいいな…」
「私、男子が良かったって思ってたけど…なんかどうでもよくなったわ」
生徒達はざわざわと話し出した。
え!?成功したと思ったけど、もしかして失敗したの…?
私のそんな思いは、皆の拍手によってかき消された。
どうやら、私はこのクラスに歓迎されたらしい。
「それじゃあ席は…」
そして、その日の授業は終わった。