赤ノキミ
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「おはよう○○さん!」
「おはよう、茅場さん」
学校の校門に差し掛かった時、後から茅場さんに話しかけられた。
「あ、あのね茅場さん…」
「うん?」
茅場さんは笑顔で首を傾げる。
「あの…苗字じゃなくて、名前で読んでほしいなって…思って…」
「!!」
私の言葉を聞くと、茅場さんは驚いた後、笑顔になった。
「うん!!○○ちゃん!!…あの…」
茅場さんは、もじもじと少し頬を染めながら言った。
「私も…!名前で読んでほしいな…なんて…」
「はるちゃん…?」
なんだか恥ずかしくて、だんだん声が小さくなってしまった。
アキラちゃんだって、什造だって、ハイルちゃんだって名前で読んでるのに…。
改まって名前を呼ぶとなると、こんなにも恥ずかしいものなのか…。
だけど、こういうのも悪くないかもしれない。
「だけどさ、よかったよ」
「なにが?」
「○○ちゃん、最初は人を寄せ付けないって言うか…話しかければ応えるけど、自分からはまったく話さないし…
初日だし仕方ないかなって思ってたんだけど…」
「そうだったんだ…」
「だけどね!!」
はるちゃんは、私の手を握って笑顔で言った。
「はる〜…あ!△△さん!」
「おはよ、奏!」
「お、おはよう…谷さん」
後から走って追いついてきた谷さんに挨拶をすると、はるちゃんは私の肩を掴んで谷さんの方へ押した。
「ほら○○ちゃん!奏もだよ!」
「え!?なになに…」
私は、私よりも背の高い奏ちゃんを見上げて言った。
「か、奏ちゃん…」
「!!!!!」
奏ちゃんは、はるちゃんよりも衝撃を受けていた。
「奏?」
はるちゃんが声をかけると、奏ちゃんは我に返った。
「…ご、ごめん…突然の事で……改めて、これからよろしくね○○!」
「……うん!!」
青春とはこんなものなのかと、私は感動していた。
「そうか!もう友達が出来たんだな!!」
先生に報告すると、喜んでくれた。
赤司君にも言ったけど、興味ないと言われた。
だけど、いつも私が体育館に入っても追い払わないから、いつの間にか体育館に行って赤司君と一言でも話すのが私の日課になっていた。
私は、学校にいる間だけ捜査官ではなく、ひとりの女子高生として過ごせたのだ。
しかし、私の幸せは長くは続かなかった。
1週間後のホームルームで、はるちゃんと奏ちゃんの死亡が伝えられた。
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「友達なんて作らなきゃよかった…」
私は、ひとりになれる場所を探して体育館が開いているのを見つけ、床に寝そべっていた。
頬に、冷たいものが伝わる。
「仲良くなんて、ならなければよかった…
絶対に許さない…喰種は…犯人は、この手で殺す…!!」
ひたすら流れ出る涙を手や腕で乱暴に拭う。
「な、なんでっ…なんで止まらないのっ…」
「そりゃあ悲しければ止まらないだろう」
突然入口から聞こえた声に、私は驚いて起き上がる。
そこには、赤司君が立っていた。
「どうして…」
「どうしてって僕はバスケ部だ。体育館を使うのは当たり前だろう」
「でも、今はテスト期間だから部活はないって…」
「…そんな事はどうでもいいだろう」
「……」
赤司君は私の近くまで歩いてきて私を見下ろした。
「私…二人と友達にならなければよかった」
私は体育座りをして言った。
「…なぜそう思う?」
「だって、もし友達にならなかったら、こんなに悲しい思いをしなくてよかった」
私がそう言うと、赤司君は私の隣に腰を下ろした。
「…お前はあいつらといて不幸に思っていたか?」
「思ってない」
「あいつらはお前と無理に付き合っていたのか?」
「そんな事はない!…と思う……」
「なら友達になはなきゃよかったなんて本当に思っているのか?」
「……思ってない」
赤司君はだんだん俯いていく私の前で片膝をつくと、私の両頬を両手で包んで上を向かせた。
「……無様な泣き顔だな」
「なっ!?」
「そんな泣き顔をもう見なくて済むように、僕がお前の友達になってやろう」
「……は?」
平然と訳の分からないことを言ってのける赤司君に、私は目を丸くする。
すると赤司君は微笑んだ。
「安心しろ、僕は死なない。だから、もう泣くな」
「……っし、死なないなんてそんなのわからないじゃん!」
「ああ、わからない。だが、僕は絶対に死なない…約束する」
「わ、訳わかんないよ…」
どこからそんな自信が湧いてくるのかはわからないけれど、赤司君の優しい声は、言葉は、私の胸に深く響いた。