暗殺少女
□第5話
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「じゃーな渚!中谷!」
杉野君はそう言って笑顔で私と渚君に手を振った。
いつも一緒に帰るわけじゃないけど、たまに一緒に帰ってくれる。
やっぱり、優しいひと達だ。
「うん、また明日〜」
「ばいばい」
渚君は笑顔で、私は手を振ってそれぞれ杉野くんに別れのあいさつをした。
私と渚君は電車なのでここでお別れなのだ。
「…おい、渚だぜ」
なにか、嫌な声が聞こえた。
「なんかすっかりE組に馴染んでんだけど」
「だっせぇ、ありゃもぉ俺等のクラスに戻って来ねーな」
声がした方向を見ると、渚君がE組に来る前に同じクラスだった男の子達だった。
────タチ悪いな。
「しかもよ、停学明けの赤羽までE組復帰らしいぞ」
「うっわ最悪
マジ死んでもE組落ちたくねーわ」
そろそろ、怒りが爆発しそうだった。
普段なら怒らない。
だけど、今回ばかりは…私の大切なひと達を傷つけるようなこと、バカにするような事を言ったこのひと達を許せなかった。
「あ、あの…いい加減に……」
「あ?なんだよ?文句あんのかよE組の分際で」
「え、えっと……」
「ちッ、言うことねぇんなら話しかけてくんじゃねーよクズ」
(ク、クズ……)
我ながらショックだった。
いや、面と向かって悪口を言われたのは久々過ぎて……
思いの外ショックで、私は何も言えなくなってしまった。
男の子達のニヤニヤした顔がとても腹立つ。
「えー死んでも嫌なんだ」
「!?」
「じゃ今死ぬ?」
目の前を何か掠ったと思ったら、次の瞬間には視界の端でアイスが飛び散っていた。
「あっ赤羽!!」
「うわぁっ」
男の子達が逃げていった。
「あはは殺るわけないじゃん」
笑顔でいうカルマ君を見て、我に返った。
「…カ、カルマ君……」
「アーニャ、大丈夫?」
「うん…その……ありがとう」
カルマ君は いいよ。と言ってまた前と同じように私の頭の上に手をポンと置いた。
(ま、まただ……!!)
また、前のように頬が熱くなるのを感じた。
(これは……なにか病気なのかもしれない…)
病院に行くべきか迷ってる間に、いつの間にかカルマ君と渚君は改札で私の方を向いて待っていた。
私は慌てて2人の方へ向かう。
「でさぁ渚君
聞きたい事あるんだけど」
「?」
「殺せんせーの事ちょっと詳しいって?」
「…う、うん」
「あの先生さぁ、タコとか言ったら怒るかな?」
話ながら改札を抜ける渚君とカルマ君の邪魔にならないように後ろをついて行く。
「…タコ?うーん。むしろ逆かな
自画像タコだし、ゲームの自機もタコらしいし
この前なんか校庭に穴掘ってたこつぼ=cっていう一発ギャグやってたし
先生にとってちょっとしたトレードマークらしいよ」
「…ふーん…そ〜だくだらね〜事考えた」
カルマ君はニヤリと笑顔を浮かべた。
なんだか、イタズラを考えついた子供みたい……。
たぶん、考えついたんだろうけど。
「……カルマ君、次は何企んでるの?」
ちょうど駅のホームにつき、歩みを止めたカルマ君が私と渚君の方へ振り向いた。
ちょうど電車が来た。
だけど、この電車はこの駅には止まらない。
「…俺さぁ嬉しいんだ
ただのモンスターならどうしようと思ってたけど、案外ちゃんとした先生で」
そう言ったカルマ君の顔は今までで見た中で一番狂気に溢れた笑顔だった。
「ちゃんとした先生を殺せるなんてさ
前の先生は自分で勝手に死んじゃったから」
「「……?」」
私と渚君はカルマ君の言葉の意味がわからなくて、顔を見合わせた。
────カルマ君は、いつも私を助けてくれる。勇気づけてくれる。
だから、私はそんなカルマ君を助けたかった。
何か困っていることがあったら今度は私が手を差し伸べる番なんだ。
だけど、今のカルマ君はわからない。
どうしたらいいのか、わからない。
「カルマ君……」
「ん?」
「困ったことあったら
いつでも言ってね…今の私じゃ頼りないかも知れないけど……
私、頑張るから」
「……!」
私の今の気持ちをカルマ君に伝えると、カルマ君は驚いた顔をして、だけどすぐに笑顔になって大きな手で私の頭を撫でた。
「ありがと、アーニャ」
その時のカルマ君の顔は、いつもの貼り付けたような笑顔ではなく、優しい微笑みに見えた。