暗殺少女

□第6話
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(……風が強いな…)


カルマ君が崖際の木の上にいる。

私はカルマ君が心配でついてきたけど、渚君は何か言うことがみたい。


「…カルマ君、焦らないで皆と一緒に殺っていこうよ
殺せんせーに個人マークされちゃったら…
どんな手を使っても1人じゃ殺せない

普通の先生とは違うんだから」


「…………」


「カ、カルマ君……?」

「……やだね、俺が殺りたいんだ
変なトコで死なれんのが一番ムカつく」

「……」


渚君と私は目を見合わせた。


「さてカルマ君。今日は沢山先生に手入れをされましたね」


「「!?」」


急に現れた殺せんせーに私と渚君は驚いた。


「まだまだ殺しに来てもいいですよ?
もっとピカピカに磨いてあげます」


殺せんせーはしましま状態。つまり、ナメきった顔でカルマ君を見ている。


「確認したいんだけど
殺せんせーって先生だよね?」

「?はい」

「先生ってさ、命をかけて生徒を守ってくれるひと?」

「もちろん。先生ですから」

「そっか良かった…なら殺せるよ」


カルマ君はそう言って対先生用の銃を殺せんせーに向けた。


「確実に」


そう言ってカルマ君は崖から後ろ向きに倒れた。


「アーニャちゃん!?」


渚君は焦って崖下を覗き込もうとしたけど、それよりも早く私はその横を通り過ぎて自分も崖から飛び降りた。


(お願い、間に合って……!)


「な!?アーニャ!?」
(ていうか、その目の色……)


カルマ君も驚いているみたい。

当たり前だ。飛び降りたんだから。

だけど、それ以外の何かもあったみたいだけど、今はなんとかしてカルマ君を助けるのが先だ。

私は空中でカルマ君に追い付き抱きついた。

それと同時に、殺せんせーが触手をクモの巣のように張り巡らせ、私もカルマ君を受け止めた。


「えっ…」

「カルマ君、自らを使った計算ずくの暗殺お見事です

音速で助ければ君の肉体は耐えられない
かといってゆっくり助ければその間に撃たれる

そこで、先生ちょっとネバネバしてみました」


私はカルマ君の上に乗っていたからよく分からなかったけど、カルマ君をみたらネバネバが邪魔で身動きが取れないらしかった。


「これでは撃てませんねぇ
ヌルフフフフフフ

……ああちなみに
見捨てるという選択肢は先生には無い
いつでも信じて飛び降りてください」

「…………はっ」


カルマ君がそう笑うと、殺せんせーのネバネバが解けたらしく、私を抱きしめた。


「!?!?!?」

(な、なななななんで!?)


顔に熱が貯まる。今まで頭を撫でられた時とは比べ物にならないほど。


「カ、カカカカルマ君!?」

「……なんで…?」

「え?」


私の肩に顔をうずめたカルマ君が何かをつぶやく。


「なんで、飛び降りたの?」

「……」


カルマ君の抱きしめる腕の力が強まった。


「……え、とそれは……」

「ヌルフフフフフフ」

「「!?」」

「いいですねぇ…」


殺せんせーの視線で私は我に返った。
すっごく、今までで見た事ないくらいニヤニヤした先生の顔。


「せ、先生!!早く上に戻してください!!」

「いやぁ、もう少しだけこのままにしておきましょうかねぇ」

「はぇ!?」


私と殺せんせーがそんなやり取りをしていても、それでもカルマ君は力を緩めなかった。


「……死んでたかもしれないのに」

「……カルマ君…死なない。絶対に死なないよ
絶対に助かるって思ってたから」

「それは、先生を信用してってこと?」


顔を上げたカルマ君と目が合い、私は苦笑いして答えた。


「うん、それもあるかな」


だけどね、カルマ君。

本当は、もうひとつ理由があるんだよ。

今はまだ、内緒だけど。


「ヌルフフフフフフ」

「ま、まだ見てたんですか!?」

「いつまで見てても飽きないですねぇ
初々しい」


先生はあらまぁと言いながら私たちを上に上げてくれた。

上に着くと、カルマ君は私から離れた。

よ、よくよく考えたら……。

ずっと抱きしめられてて……私……ああああああああああ!!!


「アーニャちゃん!?ぶ、無事!?」


ひとり悶絶していた私に、渚君は駆け寄ってきた。


「どうしてあんな無茶を……」


どうやら、下のやり取りは聞こえていなかったらしい。


「勝手に体が動いちゃって……
だ、だけど、怪我も何もしてないし!」


私はまた苦笑いしながら制服を整えた。


「それにしても、カルマ君
平然と無茶したね」

「別にぃ…」


渚君は崖下を見ながらカルマ君に言った。


「今のが考えてた限りじゃ一番殺せると思ったんだけど
しばらくは大人しくして計画の練り直しかな」

「カルマ君!!」

「?」


先生の隣にいた私はカルマ君に駆け寄った。


「も、もう無茶なことはしちゃダメだよ!!
絶対に!絶対にダメだよ!!」

「はは、それならアーニャの方が無茶してたんじゃない?」

「わ、私は……」

「そうです中谷さん!!」


突然、殺せんせーは思い出したかのように怒り出した。


「あなたとカルマ君のアレで忘れていましたが、あなたの飛び込みは大変危険な行為です!

この間の渚君の時は庇ったとして褒めましたが、今回ばかりは先生として許すわけにはいきません!!」

「ご、ごめんなさい……」

「どうしてあんな無茶をしたんですか!!
もし私が助けに行かなければ、命を落としていたかもしないんですよ!?」


(殺せんせーが私に怒ってる……)

それは、初めてのことだった。

寺坂君とか、そこら辺に怒ってるのはたまに見るけど、私に対して本気で怒っているのは先生が初めて……。


「せ、先生が……」

「先生が?」

「絶対に助けてくれるって思ったからです…」

「……」


俯いて言うと、先生から何も返ってこなってしまったので顔を上げると、すごく照れていた。


「何照れてんの!?」

「渚君、黙ってください
今私は中谷さんと先生と生徒という垣根を越えた仲になろうと……」

「するな!!教師のクセに生徒に手を出さないでよ!!」

「ちぇっ、つまんないの」

「つまんなくないわ!!!!」

「な、渚君…落ち着いて……」


私がそう声をかけると、渚君はハッと我に返った。


「きっと、何か理由があったのでしょう?」


殺せんせーは、私にしか聞こえないようにそう言ってきた。

私は肯定の意味を込めて、軽く頷いた。


「それにしてもカルマ君……もうネタ切れですか?」


殺せんせーは話を逸らした。


「報復用の手入れ道具はまだ沢山ありますよ?
君も案外チョロいですねぇ」


殺せんせーの持っている道具の中には、猫耳カチューシャまであった。

……それをカルマ君に付ける気だったんだ…。


「殺すよ 明日にでも」


カルマ君は爽やかな笑顔で言った。

もう、今までの何を考えてるかわからないカルマ君じゃなくて、ずっとずっと優しいカルマ君だった。


「帰ろうぜ渚君、アーニャ
帰りメシ食ってこーよ」


カルマ君はがま口財布を出して言った。


「ちょッそれ先生の財布!?」

「だからぁ職員室に無防備で置いとくなって」

「返しなさい!!」

「いいよー」

「な、中身抜かれてますけど!?」


渚君と私はその光景を見て微笑んだ。


「ね、渚君」

「どうしたの?」

「なんか、楽しいね…!」

「!!……そうだね」


渚君は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに優しく笑った。


(初めて見た…アーニャちゃんのちゃんとした笑顔…
いつも、こんな風に笑えばいいのに)



そんな渚の思いは誰に届くわけでもなく、消えていった。
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