珈琲と煙草
□チョコレート
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喫茶
チョコレート
ずっとその店が気になっていた。
その店はインスタ映えしそうなお洒落な外観で、
Cafe
Chocolat
とか、百歩譲って
Cafe
ショコラ
いや、
喫茶
ショコラ
でも違和感はなかったかも知れない。
しかし、何度見ても
喫茶
チョコレート
で、お洒落な外観とはまるで無縁な純喫茶風の店名との違和感がどうしても拭えない。
気になってはいたが、その店は藍原のような三十路間近のサラリーマンが一人で入れるような店ではなく、藍原は気になりつつもいつも素通りしてしまっていた。
その店は会社の近くにある店で、昼休みに通っている定食屋に向かう途中に、半年前にオープンした店だ。
女の子を連れて行けば喜びそうだなと店名を覚えようとして、思わず店名を二度見した。
この店名が連想させるように普通の純喫茶だったら、まだランチタイムにでも店に入ることができたかも知れない。
しかしその店はどう見てもお洒落なカフェで、どうしてそんな店名にしたのかも、ずっと気になってしょうがなかった。
都心から少し外れた某所のビジネス街の片隅に、その店はある。
周りはオフィスビルやチェーン展開の飲食店が多く、見た目がお洒落すぎて少し浮いている。
近所の会社の意識が高い系OLがランチタイムに利用していて、正午前後にはいつも店前に入店待ちのちょっとした人だかりができていた。
何より気になっていたのは何故、その店名にしたのかということで、藍原はずっとその謎を店主に聞いてみたかったのだ。
その店は店名の『喫茶』が示すように普通に喫茶店で、どうやらチョコレート専門店というわけでもなさそうだし。
その機会は思い掛けず直ぐにやって来た。