深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ弍拾伍
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社長の問に私は目を閉じて、あの時の事を思い返す。
私と一緒に心中する気はないかな?
人当たりの善さそうなにこやかな笑みで、私の仇敵は挨拶代わりに心中の申し込みをしてきた。
吃驚と恐怖……あの時其れが私の中でゴチャゴチャに入り交じっていた。
次に湧いたのは、周りから心配や気を遣わせたくないと云う、遠慮に近い気持ちだった。
それでも、探偵社にとって危機とも成り得る彼の情報…遠慮だけで黙っている程小さな情報では無い。
其れでも私が今迄話さなかったのは……
私は目を瞑ったまま、暫し黙考する。そして、前を見たままゆっくり目を開け、結論を云った。
「大した理由じゃありません。
探偵社の皆を信用した、唯それだけです。」
社長の眼がほんの少しだけ見開かれるのを目の端に捉える。私は社長を見ずに、何処でも無く前だけ見つめて続ける。
「社長から新入社員が入った時、何か大きな事件があった時には、逐一連絡を貰ってました。だから、彼が二年間探偵社で挙げた実績も其れを探偵社が信用してたことも知ってました。
まあ、真逆其れが本人だなんて思っちゃいませんでしたが……
でも、探偵社が信用した人間です。私が其れを引っ掻き回す何て出来る訳ありません。其の上探偵社の皆が居るんですよ?こんなに安心出来る事他にないです。
其れに……」
そこまで饒舌に喋って、私は自分で云おうとした事に驚いて固まった。
「其れに……何だ?」
社長が此方を見ながら問い掛ける。私は一瞬云うべきか迷って、口を噤んだ。誤魔化す様に笑みを浮かべて、
「いえ、何でもありません。」
私は黙秘することに決めた。昔みたくポートマフィアの事を憎いと思っていない自分がいる事何て、なんだか口で云って仕舞うと認める様で厭だった。
その時、
ドォオオン
爆音が遠くの方で鳴り、私は慌てて単眼鏡を右目に押し付けた。鏡花ちゃんの決断の結果だ……
白鯨の落下が止められ無かった時……鏡花ちゃんの居る無人機を白鯨に叩きつけ、街に落ちる前に落とす。
これが、組合を倒し、且つ鏡花ちゃんの入社試験を行うという作戦の全てだ。
私はスっと真面目な表情に戻して、社長を見上げる。
泉鏡花の入社試験はこれにて終了だ。後は社長の判定次第……
「社長……其れで結果は?」
私は静かな口調で社長に問いかけた。社長は腕を組んで目を瞑った。