深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ零
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……もう……疲れた…………
横浜某所にある小さな小屋で私は生きていた。少し乱れてしまったベッドで膝を抱えて座り込む。
先程見た光景が今でも忘れられない。
“ま、待ってくれ!こんな……”
−ダダダダダ
小さな事務所内に機関銃の音が鳴り響いた。バタバタと作業服を着た人達が血濡れになって倒れていく。
私の唯一の家族だった人が今日死んだ。
両親が事故で死んだ時から私の家族はその人だけだった。両親が早くに事故で死んで、盥回しになっていた私を拾ってくれたのがとある金属加工を生業にしていたおじさんだ。
私を不器用ながらも大事に育ててくれていたおじさん。ゴツゴツした手で頭を撫でて貰うのが大好きだった。
今日は珍しくおじさんが弁当を忘れた為、私は会社に届けに行っていた。
事務室の隣にある待合室でお茶を飲んで待っていた時、急に黒い服にサングラスという出で立ちの集団が無遠慮に入って来て事務所の人達は全員撃たれた。
勿論、おじさんも血に塗れて倒れている。
黒服達が入って来る音に気付いて待合室の扉の隙間から覗いていた私は、事の一部始終を見ていた。
どうして……あの時おじさんを助けられなかったんだろう。
能力を使えば……可能性はあった。それでも驚いて、怖くて、動けなかったのだ。
“…!”
一瞬、その黒い服の集団の先頭に立った人と目が合った。
私は逃げるように、扉に隠れる。
目が合ったのは背が高い、黒い服に身を包んだ柔らかい髪質の少年。右目や腕に包帯を巻いて薄ら笑を浮かべるその姿はまるで死神だった。
目が合ったことが気のせいだったのか、見逃されたのかは分からないが、私は彼らが立ち去るまで隣の部屋に隠れ何とか家まで帰り着くことが出来た。
これからどうやって生きていけば良いのか……。私は途方に暮れる。
日は傾き始めており、鴉の鳴き声も目立つようになってきた。
濡れた顔を袖で拭い、スっと立ち上がる。
私は頼れる人物を必死に考えた。
どこに身を寄せるべきか……
不幸な事におじさんの交友関係は分からないので、ずっと前に死んだ両親の伝を辿る。
父親の遺留品の手帳や日記を引っ張り出し、人の名前と手帳の詳細を確認した。
七年も前に死んだ人の手帳だ。今でも繋がる連絡先かどうかは分からない。
だが、この街で齢十四の子供が真っ当に生きたいなら大人の支えがどうしても必要だった。
……
………………
一体何度の電話をしただろうか。断られた数も繋がらなかった数も膨大すぎてわけが分からなくなってきた。
そして、最後に見つけた連絡先……切羽詰まった状態で祈る様に電話をかけた。
コール音が続く。……ここも、ダメだったのか……。
そう思って切ろうとした瞬間カチャッと繋がった音がした。私は必死に叫ぶ。
「すみません、お願いします!!私を助けて下さい!」
相手はおじさんの様だった。
『……どうしたんだ?』
「私の養父になってくれませんか!?」
コレが武装探偵社社長、銀狼 福沢諭吉さんとの出会いだった。