深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ壱
1ページ/2ページ
私が自立することになったあの悪夢の日からもう四年が経つ。私は高校三年生になっていた。
後見人である福沢さんにはあまり迷惑をかけない様に、自力でカフェや書店、福沢さんの営む探偵社での事務などあらゆる場所で働いていた。高校を卒業したら行きたい進路に自分の力で行ける様にする為、殆どのバイト料は貯金に消えていたが。
武装探偵社でデスクにお茶を置いて回っていると、後ろで椅子にもたれ掛かった男性が話しかけてくる。
「そっか〜。麟ももうちょっとで卒業かァ。」
感慨深いねぇと目を細める。この探偵社の古株、江戸川乱歩さんだ。私が入るよりもずっと前から居るらしい。というより、乱歩さんが居たから探偵社が出来たらしい。私も詳しくは知らないけど。
推理力と観察力は探偵社内でも飛び抜けており、パッと現場を見ただけで事件を解決してしまう。
「はい。これからの進路どうしよっかな〜と思って、色々研究中です。」
私はニコニコと愛想よく返した。大学にも行きたいなぁとは思っているが、そこまで勉強したいとも思わない。どちらかと云えば生きていく能力さえ有れば、あとは独学で充分だと思う。
「ふーん。メンドくさかったらそのままここに就職しちゃえば?」
もしゃもしゃと駄菓子を食べながら云う江戸川さん。私は冗談っぽく笑って云う。
「楽しそうなのは認めます。でも、私探偵の才能はあまり有りませんからね…」
私が異能者であることは誰にも言っていない。大体使ってすらいない異能力を持っていても、異能者と言えるのか謎だったが。
その力ならきっと探偵らしい仕事が出来るんだろうが、私は後見人になってくれた福沢さんにすら話さなかった。
能力のことさえ仲間に話さない様な奴に、探偵社員としての資質が有るのかも未だに良く判らない。
でも、此処はとても居心地が佳い。出来れば失いたくはないと思っている。矛盾を抱えて此処にいるのは本当に苦しい限りだ。
そんな私の矛盾を知ってか知らずか、椅子にもたれ掛かってシーソーの様に揺れながら乱歩さんが続ける。
「まー、君なら事務員で継続すりゃ良いんじゃない?折角昔から居るんだし〜他に就職したら寮も出なきゃいけなくなるよ?」
「椎名さんがいてくれた方が事務仕事も格段に捗りますしね。」
江戸川さんに続いて事務員の春野さんが後ろからフォローしてくれた。
「ありがとう…ございます。」
なんだかそんな風に褒められると照れくさくて、顔に熱が集まった。
「お前達サボってないで仕事してくれ。乱歩さんは社長がさっき呼んでいましたよ?」
少しため息混じりに云う手帳を右手に持った男の人。実は異能者の一人で名前は国木田独歩さん。メガネをかけた不良っぽい喋り方の人だが、根は優しく云い方がきついのは照れ屋なだけだ。
乱歩さんは椅子からひょいと立ち上がって
「おーっと…じゃあ行かなきゃね。ついでに麟の就職のことも言っといてあげるよ。」
ひらひらと手を振りながら行ってしまった。
「ら、乱歩さん…」
扉の向こうへ消えた影に私は苦笑いを零した。