深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ壱
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私が自立することになったあの悪夢の日からもう四年が経つ。私は高校三年生になっていた。

後見人である福沢さんにはあまり迷惑をかけない様に、自力でカフェや書店、福沢さんの営む探偵社での事務などあらゆる場所で働いていた。高校を卒業したら行きたい進路に自分の力で行ける様にする為、殆どのバイト料は貯金に消えていたが。

武装探偵社でデスクにお茶を置いて回っていると、後ろで椅子にもたれ掛かった男性が話しかけてくる。

「そっか〜。麟ももうちょっとで卒業かァ。」

感慨深いねぇと目を細める。この探偵社の古株、江戸川乱歩さんだ。私が入るよりもずっと前から居るらしい。というより、乱歩さんが居たから探偵社が出来たらしい。私も詳しくは知らないけど。
推理力と観察力は探偵社内でも飛び抜けており、パッと現場を見ただけで事件を解決してしまう。

「はい。これからの進路どうしよっかな〜と思って、色々研究中です。」

私はニコニコと愛想よく返した。大学にも行きたいなぁとは思っているが、そこまで勉強したいとも思わない。どちらかと云えば生きていく能力さえ有れば、あとは独学で充分だと思う。

「ふーん。メンドくさかったらそのままここに就職しちゃえば?」

もしゃもしゃと駄菓子を食べながら云う江戸川さん。私は冗談っぽく笑って云う。

「楽しそうなのは認めます。でも、私探偵の才能はあまり有りませんからね…」

私が異能者であることは誰にも言っていない。大体使ってすらいない異能力を持っていても、異能者と言えるのか謎だったが。

その力ならきっと探偵らしい仕事が出来るんだろうが、私は後見人になってくれた福沢さんにすら話さなかった。
能力のことさえ仲間に話さない様な奴に、探偵社員としての資質が有るのかも未だに良く判らない。

でも、此処はとても居心地が佳い。出来れば失いたくはないと思っている。矛盾を抱えて此処にいるのは本当に苦しい限りだ。

そんな私の矛盾を知ってか知らずか、椅子にもたれ掛かってシーソーの様に揺れながら乱歩さんが続ける。

「まー、君なら事務員で継続すりゃ良いんじゃない?折角昔から居るんだし〜他に就職したら寮も出なきゃいけなくなるよ?」

「椎名さんがいてくれた方が事務仕事も格段に捗りますしね。」

江戸川さんに続いて事務員の春野さんが後ろからフォローしてくれた。

「ありがとう…ございます。」

なんだかそんな風に褒められると照れくさくて、顔に熱が集まった。

「お前達サボってないで仕事してくれ。乱歩さんは社長がさっき呼んでいましたよ?」

少しため息混じりに云う手帳を右手に持った男の人。実は異能者の一人で名前は国木田独歩さん。メガネをかけた不良っぽい喋り方の人だが、根は優しく云い方がきついのは照れ屋なだけだ。

乱歩さんは椅子からひょいと立ち上がって

「おーっと…じゃあ行かなきゃね。ついでに麟の就職のことも言っといてあげるよ。」

ひらひらと手を振りながら行ってしまった。

「ら、乱歩さん…」

扉の向こうへ消えた影に私は苦笑いを零した。
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