深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ参
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顔見せも済んだところで早速仕事の依頼人がやってきた。
金髪の若い女の人が今回の依頼人だ。

なんだか、髪を下ろしているからかふわっとして見えるが、かなり気の強そうな女性だった。本来秘書とかってみんなそんな感じなんだろうか……
社長秘書の春野さんを思い浮かべるが、ふわっとした印象しかないのでそういう訳でもないみたいだな。

対面の椅子に座った彼女に対して、コチラは谷崎兄妹、敦くんに太宰さん。後ろで私と国木田さんが覗いてるという大所帯。

「えーっと…調査の御依頼だとか……」

谷崎さんが切り出した所で何処からとも無く声が聞こえてくる。

「美しい……」

!?

突然太宰さんが下から涌いて来た。そのまま机と女性の間に入り込み、依頼人の女性の手を握って

「睡蓮の花の如き果敢(はか)なくそして可憐なお嬢さんだ。」

それを聞いた私は何故かゾワッと鳥肌が立った。なんか太宰さんの周りだけキラキラした花まで舞ってる気がする。

「どうか私と…心中しては貰えないだろ」

そこまで言ったところで国木田さんの鉄槌が降った。ドゴッと音を立てて吹っ飛ぶ太宰さん。

「え……?」

依頼人が目を丸くした様に、私もお目々パッチリだ。あの死神さんは思っていた以上に変な奴で、国木田さんはアレを殴り倒す立ち位置らしい

「あー…御騒がせしました。気になさらずに……今のは忘れて続けて下さい。」

そう言いながら太宰さんをズルズル奥の機械室に引き摺って行く国木田さん。
パタンとドアが閉まると、ビンタした様な音と太宰さんの気持ち悪い声が漏れてきた。

…なんか……拍子抜け……
あんなのに怯えて……六年間過ごしたのか……私は…

私はガクッと人知れず落ち込んでいた。

女性の方はすぐに切り替えて話し始める。

「それで、依頼のお話しなのですが我社のビルヂングの裏手に最近良からぬ輩が屯している様なんです。」

「良からぬ輩ッていうと?」

続けて訊く谷崎さんに結構スラスラ答える女の人。

「分かりません。ですが、襤褸(ぼろ)を纏って日陰を歩き、聞き慣れない異国の言葉を話す者もいるとか…」

「そいつは……密輸業者の類だろう。」

カチャっとドアが開き、機械室から国木田さんが出て来た。機械室の中では目を回して伸びている太宰さんの姿が見えた。

チャッと眼鏡を直してドアを閉めながら国木田さんは続ける。

「軍警が幾ら取り締まっても船蟲の様に涌いてくる。港湾都市の宿業だな。」

吐き捨てる様に国木田さんが言った。探偵社でも何度か似たような依頼を受けていた憶えがある。そういう輩を何件も相手したせいで、かなりうんざりしてきて居るのだろうというのが見て取れた。

「ええ、無法の輩だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから……」

「現場を張って証拠を掴め、か。
……小僧、お前が行け」

少し考えていた国木田さんが敦くんに指示を出す。

「へッ!?」

焦ったようにサササッと後ろに仰け反る敦くん。どうやら、かなりのビビりのようだ。
まあ、私も人のこと言えないんだけど。切った張ったは大嫌いだしそういうのは関わりたくない……

「ただ見張るだけの簡単な仕事だ。それに、密輸業者は無法者だが大抵は逃げ足だけが取り柄の無害な連中−−お前の初仕事には丁度良い。」

「でっでも……」

そう国木田さんは言うが敦くんは完全に逃げ腰だ。まあ、初仕事だし……緊張もするだろうし。
まあ、国木田さんも鬼じゃないし……誰か付けるとは思うけど。

……私じゃありません様に。

そっと机に向かって抜き足差足で逃げた。

「谷崎、一緒に行ってやれ。」

よし!

「兄様が行くならナオミもついていきますわぁ〜」

そう言っているナオミちゃんも一緒になり、結局3人で行くらしい。それにしても少し心配だな……
ていうかこの仲良し過ぎる兄妹は何?本当に実の兄妹?

私はそう思いながらもデスクに戻り、事務仕事を片付け始めた。
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