深夜の酒宴 [文スト]
□其ノ肆
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「大丈夫でしたか?」
医務室から出てきた与謝野に真っ先に話しかけたのは、ナオミだった。
「兄様と皆さんは……」
心配そうに与謝野の覗き込むナオミ。与謝野は左手を腰に当て、余裕そうに笑う。
「ああ、妾の『君死給勿』で一発よ。ま、麟の方はちょっと動けないみたいだね。身体は完全に治ってる筈なんだが……能力の制約なのかねぇ。
ま、すぐ善くなるさ」
そう云って笑う与謝野にナオミも安心したように息を漏らした。そこで丁度国木田も敦のベッドの方から出てきた。
ガリガリと頭を掻きながら国木田が云う。
「んで、やっぱり麟の奴能力隠してやがったのか。しかも、時間操作…下手すりゃ敦と同等に狙われなきゃならんような代物だぞ……」
本人が気付いていないだけで、探偵社内では何かしらの能力者であることは周知の事実だったらしい。
「それより国木田くん、眼鏡なんで頭に乗っけてんの?」
太宰が机に腰掛けたまま話しかける。国木田はそれを無視したまま
「乱歩さんは知ってたんですか?」
と駄菓子を机いっぱいに広げて食べている乱歩に訊いた。
「まあ、本人からじゃないけど知ってたよ。他なら僕が教えたから社長も知ってるね」
時間操作はかなり特殊だ。しかも、麟が持つのは完全に世界全体の時間を止める様な能力。例え目の前に歴戦の猛者がいたとしても全く関係ない。時間を止めて、その間に頸動脈でも切ってしまえば誰も勝てない。異能力無効化の能力を相手が持っていない限り……
「んで、今だから訊くがな太宰」
国木田が頭に乗せていた眼鏡をやっと下ろして話しかける。
「ん?」
太宰は相変わらずニコニコした笑みを浮かべて聞き返した。
「お前、麟と面識あんのか?」
眼鏡をチャッと押さえて訊いてくる国木田。
「あるみたいなんだけど、私はあまり覚えてないんだよ〜。前職で関わってたのは何となく分かるんだけどね」
そう云いながら相変わらず飄々とした笑みを浮かべていた。
「ハァ…とにかく、お前の前職が堅気でない事はよぉおおく判った」
溜め息混じりに国木田が云った。しかし、太宰はふっと笑みを消して乱歩に問いかけた。
「乱歩さん、彼女がココでバイトを始めたのっていつ頃ですか?」
「ああ、確か六年くらい前から手伝いはしてたよ。彼女の養父が殺されて、父親の手帳でウチの社長のトコに頼ってきたんだって」
あまり興味は無さそうな様子で乱歩が話した。太宰はふぅんと顎に手を当てて暫く考えていたが、何か思いついたように立ち上がり医務室に向かって歩き出した。
「おい!太宰!!」
太宰が事務室を出ようとした時、後から国木田が叫んだ。
「ん?」
太宰はニッと笑いながら振り返る。国木田は少し目線を落として、何か考えてる様だった。眼鏡が反射してきちんと表情は伺えない。
「……あまりあいつを」
「分かってるって。」
太宰はドアを開けながらそう答えた。