深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ肆
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焦った様子の敦くん。しかし、探偵社の状況を見て声も出せずにポカーンとしていた。

「やっと帰ったか、小僧。」

リーダー格の男性の腕を厭な音を立てて捻りながら敦君に声をかける国木田さん。私も物陰の方からゆっくり出ていく。

「おかえりなさい、敦くん。良かった〜其方(そっち)此奴(こいつ)等が行かなくて〜」

ニコニコと笑ったまま手をヒラヒラと振った。

「これだから襲撃は厭なのだ。業務予定がまた大きく狂ってしまう。オフィスのリフォームと壊れた備品の再購入に一体幾ら懸かると思ってる」

アハハ〜と軽く笑いかける私とは対象的に国木田さんは眼鏡を押し上げ、万年筆で手帳に書き込みながら不機嫌そうに言った。

「結構面倒ですよね〜ドアまでご丁寧に壊されましたし…」

そんな国木田さんを見ながら、私は近場に広がった資料を拾い集めて苦笑した。そこに腰に手を当てた与謝野さんが事務所の向こう側の窓付近から声を上げる。

「麟のお陰で大分事務所の被害はマシだったけど、本当ならもっと面倒な事になってたよ?今回近所から来るクレームにお詫びの品を用意して謝罪しに行くのは、国木田君の番だからね」

あれ面倒なんだよね……下の法律事務所のおじさんとか…最近は常連になり過ぎてもう溜息をつく所まで来ちゃってる。

「結局最悪の状況になってしまった。本気で麟、助かった。」

国木田さんが眼鏡を直しながら改まって言う。

「いえいえ」

私は右手をヒラヒラさせながら笑った。

「国木田さーん。コイツらどうします?」

賢治君がマフィアの山を一瞬見てから国木田さんに向かって問うた。
国木田さんは眼鏡を押さえて、不機嫌に答える。

「窓から棄てとけ」
諒解(りょうかい)〜」

賢治君が国木田さんの指示通りにポンポン数を数えながら窓から外にマフィア達を放り投げていく。怪力異能力本当に凄いな〜

なんかマフィアが可哀想に見える。

「いつもの事ながら襲撃はもうほんっと勘弁して欲しいな。」

はァと面倒臭そうに溜息をつく国木田さん。ブチブチと小言を言いながらしゃがみこんで、被害状況を確認していた。敦君はというと完全にまだ放心状態だ。

「さっさと片付けを手伝え、小僧!
全くこの忙しいのにフラフラ出て行きおって…自分に出来ることを考えろと言っただろうが。
まあ、お前に出来るのは片付けの手伝いくらいだろうが。」

またブチブチ文句を言いながら手帳に向かう国木田さん。本当に手帳大好きだな…いつか手帳と結婚するなんて言い出すんじゃ無いだろうか。

私はさり気なく敦君の表情を盗み見る。



敦君の頬に水滴が流れていくのが見えた。

「…そっか……。…あ……ハハハ」

敦君は泣きながら笑っていた。

「……貴様…ヘラヘラ笑っている暇があったら…!?」

国木田さんが怒りながら敦君の方に向き、途中で怒りの勢いが驚きに変わる。

「なんだお前泣いてるのか?」

「っ!?な、泣いてませんよ!!」

バッと反対方向を向いて、泣き顔を隠そうとする敦君。国木田さんがグイッと敦君の肩の方に頭を寄せながら

「泣いてるじゃないか。」

慌てて袖で涙を拭う敦君。

「だから泣いてませんって!!」

「これだからな〜。全く最近の若い奴の典型だお前は」

そう言う敦君に説教を垂れ始めた国木田さん。うわぁ……新人いびりだ……

「違います!!これは違います!」

「だっって泣いてるじゃないか。」

「泣いてるけど……これは違うんです!!」

そう言って必死に反論する敦君がなんだか可哀想になってきてしまった。

「国木田さん。泣かした上にガミガミ説教ってちょっとパワハラですよ?敦君、折角下に法律事務所が有るんだから何だったら相談してみるのもありだからね?」

「コラ麟!!何吹き込んでんだ!!」

後ろで怒鳴る国木田さんを無視して敦君に笑いかけてやった。ガミガミ五月蝿いのが悪い。


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