深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ伍
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カタカタとパソコンにデータを打ち込む。コレが私の基本業務だ。二年間で培った事務能力も追加され、だいぶやり易い。

能力は早速皆にばらしちゃったので、二年前の決意は何だったのかと言いたくなるが…まあ、気にしたら負けだろう。探偵社に貢献する、という目的は変わらない。

情報収集、苦情処理から会計、資料作成の様な一般的な庶務まで全てに携わる。それが武装探偵社事務員だ。今日は今月の全員の給料を打ち込んでいる真っ最中だった。

基本的には成績、勤務年数で給料が変わるので新人の敦君はまだ余裕のある生活は遠そうだ。

小さく口元に笑みを浮かべて、データの処理を行う。

そこで少し気になったのが太宰さんの給料だ。彼は二年前、私が此処を出てすぐの頃から此処で働いていて、実績も高い。普通にしていれば、かなり優秀な調査員と言える。

だが、減給を食らっている割合が断トツに高い。

国木田さんに訊けば、どうやら自殺愛好家(マニア)の為何時でも何処でも自殺を図ろうとする。

その結果、あちこちに迷惑をかけてその度減給されているそうだ。

まあ、減給されてもそこそこ多いのだから腹が立つ限りだが……

個人的にはそのまま死んでくれた方が良い気もするのだが、仮にも今は探偵社の仲間だ。変なトコで死なせる訳にもいかないし復讐する訳にもいかない。

「ハァ……」

私は盛大に溜息をついて机に突っ伏した。

「なんだ、麟。今日は電池が切れるのが早いんじゃないか?」

国木田さんが後ろを通りながら、ポンッと書類で頭を叩く。通り過ぎていく国木田さんを、伏した腕の隙間から覗いてもう一度盛大に溜息をつく。

「…オイ、いい加減にしろよ?」

腰に手を当ててすぐ後ろで怒る国木田さん。仕事の鬼だなこの人は……

「今日はやる気が出ません。」

そう言いながら、机の右隅に置いてあるキャンディボックスから飴を取って口に放り込んだ。檸檬の味が口の中に広がる。

「あれ…椎名さんってこんな感じだったんですか?サボり魔は太宰さんだけかと……」

「ああ、此奴も負けず劣らずサボりだぞ?月に2、3日位前触れなくこうなる。急にやる気が出んとかで作業効率が一気に下がるんだ。」

だいたい探偵社の人間で常に真面目に勤務してる人の方が少ない気もするんだけどねぇ。

後ろで敦君と国木田さんが失礼な会話をしているのを無視して、私はガタッと起き上がる。

そうは云われても、本当に今日は駄目なのだ。やる気になれない。

「国木田さん、ちょっと今日午前であがります。今日はなんか気分転換しないとダメな日みたいなんで」

後ろの国木田さんに椅子を反転させて許可を取った。

「あぁ、どうせ無理ならちゃっちゃと終わらせて休め」

そう言って貰った私は小さくガッツポーズをとった。そして、倍のスピードで業務を片付けていく。

「うぇ!?

やる気実は有るんじゃ……?」

敦君が後ろで驚いた声を上げるが、私は今それ所じゃない。さっさと終わらせて休む!!

「仮にも勤務年数最長事務員だからな。やる気なら一瞬で簡単な事務仕事ぐらい終わらせる。二年間そっち方面の勉強もしてたらしいしな。
このペースなら後一時間位で今日の業務予定位片付けるだろ。

いっそずっとこうならどれだけ良いことか……」

「へ、へぇ……」

後ろで国木田さんと敦君が喋っているのも無視して作業を終わらせにかかる。本当に一時間程で全ての入力操作を終わらせてガタッと立ち上がった。

「終わりました!!」

「おー早いじゃん」

後ろでラムネから取り出したビー玉を窓の光に翳しながら乱歩さんが言った。
国木田さんは私のパソコンと横に置いてある資料を一瞥すると、腰に右手を当てたまま諦めたように

「良し、帰っていいぞ」

と言ってくれた。

「やった!じゃ、お疲れ様です」

そうにこやかに云ってガサガサと資料を纏めた。

「お疲れ〜」
「お、お疲れ様です」

帰り支度をしてササッと帰る。よし、買い物にでも行こう!
久しぶりにお出かけだ!
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