深夜の酒宴 [文スト]

□其ノ伍
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リビングに戻った私は台所に立って簡単な料理を始めた。今日はもう疲れたので簡単な物で済ませることにする。

鶏肉が無かったのでソーセージを代用品にチキンライスもどきを作って、卵でくるんと巻けばお手軽オムライスの出来上がりだ。

後は即席(インスタント)スープにお湯を入れて仕舞えば今日の夕食は完成…

ルンルンで戸棚からコップを出そうとしていた時すぐ後ろから声がする。

「オムライスかい?」

「わぁああああああ!!」

私は急にかけられた声に吃驚して思わずしゃがんだ。

「おぉっと、危ない」

そんな私とは対称にそう云って太宰さんは落ちかけたコップをひょいとキャッチする。


私はしゃがんだまま恨みがましい眼で、コップの持ち手を摘んで弄ぶ太宰さんを見上げた。

「プフッ
麟ちゃんの今の驚いた顔、凄く可愛かったよ?」

口元に手を当てながら何時ものニコニコというより、ニヤニヤと輪をかけておちょくった顔にムッとする。

「気配を消して急に話しかけてこないで下さい。」

そう文句を云いながら、ふらふらと立ち上がった。

「だって美味しそうな匂いがしてたから……」

うるうるとした目で見つめられると、演技と判っていても責められな。取り敢えず無視してリビングに運びながら

「……太宰さんのはありませんから早く寮に戻って下さい」

と出来るだけ冷めた口調で云ったら、太宰さんが少し声を落として

「家に戻っても何も無いのだけどね。まあ、これ以上は悪いし帰るよ…夕食が無いのは慣れてるしね」

トボトボとした歩き方で玄関に向かって歩いて行った。

私はそれを見ながら


……ぬぁああああ!!

脳内で葛藤していた。

可哀想なんて思ってない!
ていうか彼奴に同情なんてしない!
どうせ何時もの演技なんだから本気にしたら負けだ。断じて違う!

ガチャッとドアを開けてリビングを出て行こうとする太宰さん。

私は悔しさを込めて拳を握った。

「待って下さい!」

もう毒を食らわば皿までだ!私の呼び止めに太宰さんがドアノブに手をかけたまま振り返って

「何だい?」

と訊いてきた。私は一瞬グッと唇を噛み締めてから

「……簡単な物でいいなら何か出します」

「いいのかい!?」

キラキラとした顔で太宰さんが此方を見てきた。絶対最初っから最後まで全部演技だったろ…


何でこんな事になったんだろう……。真面目に今日仕事しなかった罰でも下ったんだろうか……

いや、仕事はきちんとやったのだから罰を喰らう筋合はない。

相手が太宰さんだったから、としかこの状況の説明がつかない事がよく判った。

結局オムライスをもう一つ作り、挙句に酒とツマミまで出して持て成す羽目になってしまった。



今日一日で学んだこと


この人に関わると碌な事がない


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